2009年度朝日賞を本研究科の協力講座の教授2名が受賞
朝日賞は, 1929年に朝日新聞の創刊50年を記念して創設され,学術,芸術などの分野で傑出した業績をあげ,日本の文化や社会の発展や向上に貢献した,個人・団体に贈られる賞である。2009年度は,理学系研究科の協力講座から豊島近教授(分子細胞生物学研究所,物理学・生物化学専攻を担当)と諏訪元教授(総合研究博物館,生物科学専攻を担当)の2名が受賞した。
豊島近教授の受賞を祝して

豊島近教授
豊島近教授(分子細胞生物学研究所,物理学・生物化学専攻を担当)が2009年度の朝日賞を受賞されました。これは,豊島教授の20年にわたる「カルシウムポンプ作動機構の解明」が高く評価されたものです。
カルシウムポンプはATP(アデノシン三燐酸)の加水分解によって放出されるエネルギーを利用し,濃度勾配に逆らってカルシウムイオンを輸送する,生体膜に埋め込まれた膜蛋白質です。たとえば,筋肉の収縮のために貯蔵庫である筋小胞体から放出されたカルシウムイオンを,筋小胞体中に汲み戻すことによって,筋肉の弛緩をもたらします。豊島教授は,20年以上,誰も成功しなかったこの蛋白質の結晶化に取り組み,独自の技術を開発して2000年に構造決定に成功しました。さらには,反応サイクル中の中間状態の構造をSPring-8を利用して次々と決定し,濃度勾配に逆らってイオンを輸送するという複雑な動作を原子構造に基づいて説明するという画期的な研究を成し遂げました。しかも,それに伴う構造変化の大きさは誰も予想し得なかったものであり,多くの派生的研究を促進するなど,構造生物学に多大なインパクトを与えました。 現在はより複雑で生物学的・医学的により重要ともいえるナトリウム・カリウムポンプの解明に取り組んでおられます。
諏訪元教授,受賞おめでとうございます

諏訪元教授
諏訪元教授(総合研究博物館,生物科学専攻を担当)が2009年度の朝日賞を受賞されました。これは,諏訪教授の十数年にわたる「ラミダス猿人など初期人類の進化に関する研究」が高く評価されたものです。
ラミダス猿人(Ardipithecus ramidus)は約440万年前の初期人類化石であり,アウストラロピテクス属より古いヒト祖先集団として初めて,全身的な姿かたちや生息環境などが明らかにされました。これらにより,人類の進化過程において,ホモ属でもアウストラロピテクス属でもないより原始的な祖先グループが存在したこと,さらにはこれまでの予想を覆し,ヒト-チンパンジーの共通祖先に最も近い生物集団が,現生の大型類人猿のどれとも似ていないことが示されました。ラミダス猿人は森林にすみ,足の親指は他の4指と対向し把握能力を残す一方で,二足で地上を歩くことができたようです。
ラミダス猿人は, 1992年に諏訪教授自身が発見した一片の臼歯に始まり,その後,ほぼ完全なメス個体とそれ以外の110以上の標本群として発見されています。まさにルーシー (Lucy) 以来の大発見です。これは1980年代より継続されてきたエチオピアでの調査を核とした国際共同研究の成果であり,広く社会に認められたことは,たいへん喜ばしいことと思います。