中村栄一教授,紫綬褒章を受章

小林 修(化学専攻 教授)

図1

中村栄一教授「撮影:柴田昌勝」

東京大学グローバルCOE「理工連携による化学イノベーション」拠点事業リーダーである化学専攻の中村栄一教授が, 2009年11月3日の褒章発令において,学術,芸術上の発明,改良,創作に関し事績の著しい方を対象とする紫綬褒章を受章された。

中村教授は永年にわたって,物理有機化学・有機合成化学・物質科学の教育,研究に尽力されてきた。ともすると,「フラスコの中で化合物を混ぜてみないと何が起こるかわからない」という有機合成化学の分野に,理論化学や物理有機化学の方法論を積極的に導入することで高度の合理性を与え,有機化学における多くの問題を解決するとともに,それまで不可能と考えられていた反応をフラスコの中で実現し,また,紙の上でのみ考えられていた化学種が実際に存在可能であることを次々に示してきた。さらに,最近の顕著な業績として,中村教授自身が開発した方法論をサッカーボール型炭素分子であるフラーレンや関連化合物の新たな化学修飾法へと展開し,「炭素クラスター複合体の精密有機合成化学」という新分野を形成したことが挙げられる。この研究は中村教授ご自身によって,有機薄膜太陽電池の高効率化に資する新材料の開発や,透過型電子顕微鏡を用いた世界初の有機分子一分子の動きのリアルタイムの直接観察へと展開され,「世界観を変える」とまで新聞報道されている。

このように中村教授は,学術面での重要性に加え,資源・環境・エネルギー問題への貢献を視野に入れた研究課題を追求することによって,化学の真の発展に大きく貢献されており,いずれの研究も独創性,一般性,実用性ともにきわめて高い。国内はもとより国際的にも高い評価を受け,米国芸術科学アカデミー外国人名誉会員として活躍しているほか,独フンボルト研究賞を受賞し,米国化学会賞の受賞も決まっている。今回の受章を契機に,研究のいっそうのご発展をお祈り申し上げる。