平成21年度文部科学大臣表彰若手科学者賞を理学系研究科から2名が受賞
文部科学大臣表彰若手科学者賞は,文部科学省が科学技術分野において独創的な視点に立って高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績を挙げた41歳未満の若手研究者にその功績を讃えることにより,わが国の科学技術水準の向上に寄与することを目的として設立された研究賞である。
平成21年度は,理学系研究科から化学専攻の平岡秀一准教授と物理学専攻の平野哲文講師の2名が受賞した。
平岡秀一准教授(化学専攻)の受賞を祝して

平岡 秀一(ひらおか しゅういち)准教授
化学専攻の平岡秀一准教授が平成21年度の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞しました。
これまでに本学化学教室からは,小澤岳昌(現東京大学教授),田中健太郎(現名古屋大学教授),磯部寛之(現東北大学教授),佐藤守俊(現東京大学准教授)の各氏が本賞を受賞しています。
平岡秀一准教授はこれまで,金属イオンの特異な動的特性に着目し,これらを自在に制御するための革新的な分子の創製を行ってきました。近年,化学結合論に基づくビルドアップ法を利用した,ナノ分子素子の構築が注目されていますが,平岡准教授は複数の金属イオンの動的特性を制御するための新しい分子として「ディスク状多座配位子」を精密設計し,機械的な動きをする分子や顕著に構造・機能変化する分子カプセルなどを先駆的に開発しました。多彩な自己集合性三次元構造体に動的特性を付与し,高次機能をもつ分子を開発する点が本研究の特徴です。平岡准教授はさらに,動的特性をもつチタン錯体を開発し,異種多核錯体の構造および動的制御も達成しました。これら一連の研究に対する高い評価がおもな受賞理由です。
平野哲文講師(物理学専攻),受賞おめでとうございます

平野 哲文(ひらの てつふみ)講師
平成21年度文部科学大臣表彰若手科学者賞を物理学専攻の平野哲文講師が受賞されました。お祝いを申し上げます。受賞対象は「相対論的流体力学よるクォークグルーオンプラズマの研究」です。今世紀に入り,米国ブルックヘブン国立研究所の重イオン衝突型加速器RHICを用いて,温度が1012 Kを越える超高温物質「クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)」を生成する実験が開始されました。その結果,高い運動量をもつクォークが高温物質内部で大きなエネルギー損失をおこすジェット抑制現象や,反応後の粒子が強く結合し流体的に振る舞う楕円型フロー現象などが発見されました。
平野氏は,この重イオン衝突の理論研究で次々と成果を挙げてこられました。とくに,世界に先駆けて,空間対称性を仮定しない相対論的流体方程式に基づく数値計算を実行し,QGPの局所熱平衡成立の実証やジェット抑制の定量的研究を行いました。平野氏の研究により,RHICで生成された高温物質が完全流体のように振舞う可能性が明らかになり,強結合QGP研究という新たな分野が拓かれました。
今年から本格稼働するヨーロッパ共同原子核研究機構CERNの大型ハドロン衝突型加速器LHCでもQGP生成実験が行われる予定で,平野氏の理論研究は益々の発展が期待されます。