第3回理学部学生選抜国際派遣プログラム

UCバークレー・スタンフォード大学訪問

五所 恵実子(国際交流室 講師)

図1

午前11時のUCバークレー

図2

キャンパスツアーin スタンフォード大学

理学部では2006年度より将来世界で活躍できる優秀な理学部生を派遣する「理学部学生選抜国際派遣プログラム(ESSVAP: Elite Science Student Visit Abroad Program)」を実施している。第3回目となる今回のプログラムでは書類選考と英語の面接で選ばれた10名の学生が2009年3月4日(水)から13日(金)の10日間,米国のUCバークレーとスタンフォード大学を訪問した。

UCバークレーは学部生の97%をカリフォルニア州出身者が占めるアメリカでトップレベルの州立大学である。大学の収入には州の税金も含まれているため,授業料は州内出身者であれば年間約40~45万円ほどであるが,他の州や海外からの学生は3倍の授業料が必要となる。大学院生やポスト・ドクターともなると学部でCaltechやMIT,大学院でスタンフォードを卒業した研究者もいるなど,人の流動性や多様性を奨励するアメリカ社会の文化や制度を垣間見ることができると同時に,日本とは異なり,ハーバードやイェールといったアイビリーグを含む私立大学や州立大学で世界トップレベルの大学がいくつもあることが研究者の移動を可能にしていることを実感した。緑の芝生輝くキャンパスでは午前11時の授業終了と同時に一斉に建物から人が流れ出し,学生達が自転車や徒歩で忙しなくキャンパスを横切っていく様子が圧巻であった。アルバイトの学生が案内する無料のキャンパスツアーでは目の前に広がる芝生の下,100メートル先まで一面に巨大な地下書庫が設置されており,蔵書数は国会図書館の次に多く,また,ノーベル賞受賞者専用の駐車スペースも5つほど連なっている。キャンパスのすぐ隣には米国エネルギー省直下の研究所であるLBNL(Lawrence Berkeley National Laboratory)もあり,まさに研究環境としては最高の環境である。

バークレーから地下鉄と列車を乗り継いで2時間あまり,同じサンフランシスコのベイ・エリアでもちょうど反対側にあるスタンフォード大学は学部生の年間授業料だけで数百万円という,こちらも学問,研究で全米トップレベルを誇る私立大学である。スペイン語で高い木を意味するPalo Alto(パロアルト)の町は治安もよく,Cal Trainの駅を出てキャンパスを結ぶ無料バスに乗り背の高い椰子の木が両側に並ぶ入り口を直進すると,まるで天国のように美しく広大なキャンパスが見えてくる。キャンパス内は15分~30分間隔で何本もの無料バスルートが設けられ,学生は車でなくても徒歩と自転車とバスを使って学内を移動することが可能である。スタンフォードの大学院生の特徴としては,まじめにこつこつと努力し,研究に取り組む姿勢が挙げられるそうだが,その理由は,キャンパスに研究室と寮が共存し治安もよいため,夜中まで研究に打ち込める環境が整っている点にある。この10数年,とくにキャンパスの西側では建物の建て替えや,駐車場であった場所に学際分野を含む新しい建物を建設するなどで,景観が昔とくらべかなり変わったようである。これらの新しい建物の中にはビル・ゲイツ(Bill Gates)と日本の企業が寄付したコンピューター科学専攻のGates Computer Science(建物の名称は寄付金の半分以上を出資したビル・ゲイツとなっているが,建物内の教室名には多額の寄付をした東芝など,日本企業の名前が複数付いている),Netscape創設者のジェームス・クラーク(James Clark)氏が寄付した通称Bio-XともよばれるClark CenterやYahoo創設者のジェリー・ヤン(Jerry Yang)と山崎晶子夫妻が寄付し,建物内での人の交流と環境に優しい水や資源の循環を意識したY2E2という建物も含まれている。昨年の金融危機の影響でスタンフォード大学も基金(endowment)の約4分の1を失ったためか,現在キャンパス内で着工している幾つかの新築工事の次に予定されていた工事は待ち状態だそうである。にもかかわらず,卒業生などによる寄付が大学の研究環境をより豊かに整えている現状,そして,駐車場を減らした土地を有効に使い,車の代わりにパロアルト市とスタンフォード病院,ショッピングセンター提供の無料バスを提供することで(車をでの通勤止めた人には大学がお金を払うそうである)環境に優しく,かつ,学際分野のさらなる発展を目指す大学の方向性をしっかりと見て取ることができ,プログラムに参加した学生達にとっても多くを体験し,感じた10日間であったことだろう。

毎回のことながらプログラム実施にあたり,国際交流委員および理学系研究科の先生方には大きなご支援・ご協力をいただいた。また,今回とくに訪問先のUCバークレー,スタンフォード大学では先方の国際オフィスを始め,東大工学系G-COE拠点オフィス,スタンフォード・シリコンバレー赤門会,東大OBなど,多くの現地東大関係者のご協力により研究室訪問を実施することができ,この場を借りて深くお礼申し上げたい。なお,次回の第4回理学部学生選抜国際派遣プログラムの訪問先および募集については9月に国際交流室のホームページに掲載の予定で,希望者には5月下旬より報告書を配布する予定である。問い合わせは理学部国際交流室( )まで。

プログラムに参加して

渡辺 悠樹(物理学科4年)

今回参加させていただいたESSVAPの10日間で,今まで漠然と普遍的だと思い込んでいた東京大学での生活,教育,研究が,アメリカの大学とはかなり異なっているのだと知った。

アメリカ社会は筋の通った競争社会であるという。社会に出ると,出身大学で評価されるのではなく,大学で自分が何を学び何をなしたかが評価されるらしい。日本では親の援助を受けながらなんとなく大学に通ってしまうこともあるが,アメリカでは学生ローンを組んで自立した生活を送る学生が多く,進学に対する目的意識がはっきりしている。また日本には遠回りなどをせず,無難な道を歩んだ方が良いといった画一的な風潮があるようだが,アメリカの大学は,合わなかったから途中で変えてみるといった方向転換には寛容であるようだ。

研究室間での密接なつながり,たとえば物理では理論家と実験家の間の議論や協力といったものは,意外と日本の大学でも頻繁に行われているらしいことが帰国後に研究室訪問などをしてみて分かった。しかし,研究室内での縦の関係には著しい違いがあるといえる。Berkeleyの工学部の安俊弘准教授に伺ったお話は印象的であった。アメリカの大学では,「面白い話やお金を取ってきた人」が中心となって必要なメンバーを集め,プロジェクトチームを立ち上げる。そのさい,院生の下に教授が付くということもありえるし,また研究室のメンバー内に限定されるということもないそうだ。

実際にアメリカの学生と交流してみて,ひとりひとりが自分の意見をしっかりと発言することに驚かされた。ある女子学生はなんと私たち10人を一度に相手にして議論をしてみせた。ずっと同じ大学に身を置く学生が少なく,学生や院生の経歴は多種多様である環境においては,きちんと議論をするということが常に必要なことだろう。授業のクラスは少人数で,授業でも「出席」ではなく「参加」が重要であり必ず発言が求められるものもあるそうだ。それも皆と同じような発言ではなく,たとえ間違ってはいても「独自のアイディア」の方が高く評価されるという。このような中で自然に,学生の発言力,議論をする力が養われているのだろう。

ところで,東大生が自分の通っている大学を他人に明かすとき,往々にして「一応東大です」などと言いづらそうにする,という話は有名である。東大生であることを内心では誇りに思いつつも,東大に対する世間のイメージもあってか,他の大学に通っている友人に対して「東大のいいところ」などの自慢話をするなどはできない。ところがU C Berkeleyの学生は違う。自分がCal(U C Berkeleyの愛称)の生徒であることを誇りに思っており,Calが大好きだ,すばらしい大学だ,と語るのに躊躇がない。胸元に目立つ黄色で大きく「Cal」と書かれたパーカーを多くの学生が着ているのもその愛校心の表れであろう。素直に表現できることが国民性なのだろうが,羨ましく感じた。またCalの特徴として「多様性」をみんなが口々に自慢していたのも印象的であった。実際,私の想像をはるかに超えるさまざまな人種・容姿の人たちが校内にあふれていた。振り返って東京大学の自慢できる特徴とはなんだろうと,考えてしまった。

アメリカの大学のいい面だけを多く見て来てしまったためか,日本の大学に対する批判のようになってしまったが,誤解の無いよう,私は東京大学の大学院への進学を考えていることを付け加えておきたい。共に物理を議論し合える友人に恵まれているし,魅力的であこがれる研究室が多くあるからだ。東京大学という環境の特殊性を意識しつつ,東京大学に通っていることを誇りに思いながらこれからの学生生活を過ごして行きたい。