素粒子を紐にするとすべてが1つに統一できる

松尾泰(物理学専攻 助教授)

素粒子を紐にするとすべてが1つに統一できる

自然界には、重力、電磁気力、(原子核内で働く)強い力、(素粒子の間に働く)弱い力、の4種類の力が存在している。このうちの重力を除いた3つの力を統一した理論のことを万物の理論(統一場理論)と呼び、物理学が目指す究極の理論とも言われている。

力を統一する理論は、ニュートンの万有引力の法則が有名だ。ほかにもマクスウェルの電気磁気論やワインバーグとサラムによる電弱統一理論などが知られている。

物理学が求める万物の理論とは、世界を構成している、この4種類の力を統一することで、宇宙や自然界の成り立ちを記すことのできる方程式のことである。理論物理学とは、様々なアプローチから、この万物の理論を探求し続けていることだと言ってもよい。そして現在、万物の理論としての候補にあげられているのが、松尾がテーマとしている、超弦理論なのである。

超弦理論とは、この世界を構成する粒子=素粒子は点ではなく、弦(ひも状のもの)であると考える理論である。

素粒子には、中間子や陽子、電子などのクォーク、電子やニュートリノなどのレプトンが発見されており、いずれも物質を構成する素粒子である。また、先に述べた4つの力を媒介するゲージ粒子、質量を与えるヒッグス粒子などが実験などによって存在することが明らかになっている。

しかし、これらの素粒子をそのまま用いるだけでは、場の統一理論を導くことができない。そのため、素粒子を1つの弦(ひも)の状態であると仮定し、その弦が、閉じていたり、開いていたり、振動することにより様々な波形をつくることで、その性質を理論化しようという試みがなされている。

素粒子と宇宙を理解する

超弦理論(超対称性を持つ弦理論)のベースとなる考え

松尾がまだ大学院生のころに、この弦理論をさらに発展し今の超弦理論に導く超対称性理論が発表された。

「当時はインターネットなどが普及しておらず、まだ発表前のゲラの段階のコピーが、文字も読みにくくなった状態で私の手元に届きました。その時に感じた、これで素粒子論がブレイクするに違いないという実感と高揚感を今でも覚えています」と松尾は言う。

この理論は、物質を構成する素粒子の総称であるフェルミオンと、力を伝播したり質量を与える素粒子の総称ボソンを入れ替えても物理法則や質量などが不変になるような対称性を含む理論と説明される。松尾は、この理論に出会って、素粒子論に本格的に取り組むことを決意するのである。

超弦理論は弦理論が提唱されてからも30年近くが経つのだが、まだ未解明な分野が数多く残されている。しかし、この理論が完成すれば素粒子そのものだけでなく、宇宙が誕生し消滅する様子さえも理解できる、究極の物理理論になると期待されているのである。

弦理論を説明しようとすると、時空が10次元でないと矛盾が起きてしまう。この論を進めると10次元の中にはDブレーンと呼ばれる様々な次元の膜が存在し、宇宙の創生から終焉に至るまでの重要な役割を果たしていると考えられている。つまり、我々は10次元時空中の3次元のブレーンの上に存在していて、宇宙のインフレーションは別のブレーンがぶつかって消滅するプロセスであるという考えだ。また、ブレーン同士が衝突することで発生するエネルギーがビッグバンの基になっているという考えもある。

超弦理論にはもともと5種類の模型が知られていたが、ブレーンをソリトンとして考えることにより、同じ理論の異なる極限としてとらえることが可能になった。この枠組みの中には11次元で定義されている膜の理論も含まれており、これらを総称してM理論と呼ばれるようになった。これを宇宙論に展開すると、ビッグバンは我々の存在する宇宙が所属する膜とほかの膜の接触によるエネルギーが原因で起こったと説明できるのである。

物理には思想がある

松尾は、「物事の理(ことわり)をあらわすときに、言葉にすると何行も必要なことを一行で書ける数理学的なアプローチの美しさに惹かれたのです」と、理論物理学を志した動機を語る。

物の理について、最初に感化されたのは、小学校時代の友人が語った話を聞いた時。「彼にアインシュタインの相対性理論やフロイトの心理学について教えてもらい、世の中の仕組みが、こうした研究や学問によって積み上げられていくことを知ったのです。その彼は哲学の分野に進みましたが、私は理論物理学に進みました」。

松尾が、理論物理学を志したもう1つの理由について、「自然現象の奥にある数学的構造の美しさ」のほかに、「物理学にはほかの理数系の学問と比較して自然の根底に横たわるものに対する思想がある」ということをあげる。アプローチは違っても、求めることは小学校時代の友人と同じだ。

運動量の保存、熱エネルギーの保存、万有引力などの物理学で学ぶ論理は、世界を形づくる法則を解き明かしたもの。そこには、物語が生じ、解き明かした対象への思想が内在する。

松尾が素粒子を研究テーマにしたのは、まだ解明し尽くされていないゆえに「想像力をかき立てるものがあったし、研究の自由度が高い」と感じたから。彼のモチベーションは、超弦理論による統一場理論の解明に続き、そのことが宇宙の創生やブラックホールの成り立ちへの解明に続いている。

「素粒子の研究は、ますます実証実験が難しくなっています。これからは全体を見渡す力も求められている。一方で、日本人が持っている研究に対する緻密さも、これからの素粒子論の研究には必要なのです」と松尾は語っている。

(文章:小坂義生/写真:佐藤久)