若手研究者が語る、リガクの明日

若手研究者が語る、リガクの明日

宇宙の近さを実感して研究の虜になった

憧れから、目指すべきフィールドへ。JAXAで惑星科学を研究する村上さんの進路を決定づけたのは、日々の研究で感じた「宇宙への近さ」だった。

PROFILE

村上 豪

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
日本学術振興会特別研究員PD
(宇宙科学研究所 早川基研究室)
村上 豪
2006年東京大学理学部地球惑星物理学科卒業、’08年同大学理学系研究科地球惑星科学専攻修士課程修了、’11年同博士課程修了。’08〜’11年日本学術振興会特別研究員DC(同大学理学系研究科地球惑星科学専攻吉川一朗研究室)、’11年より現職。

「この実験結果が水星探査機に反映されるから、ちゃんと実験するように」

現在、JAXAで惑星科学を研究する村上豪さん。学部3年次の実験のさなか、担当教員の吉川一朗准教授が発したそのひと言が、村上さんの進むべき道を決めた。

実験装置は、見た目もスペックも宇宙へ飛び立つ実物とほぼ同等。大学での日々の研究が、宇宙にそのままつながっている――。宇宙がすぐ手の届くところにあると実感することで、村上さんはますます研究の虜になっていった。

「小学生のころから宇宙に憧れていて、大学も学部も学科もほとんど決め打ちでした。でも、まさか学部の実験で、宇宙を実際に飛ぶ観測器の実験に携われるとは思っていませんでした。この瞬間、宇宙は憧れから、目指すべきフィールドに変わったんです

「映画では火星に人が住んでいて、そんなの無理だと子供心に思いました。ところが調べてみると、火星の北極には氷があり、その中には酸素が溶け込んでいる可能性があることが分かりました。その酸素をうまく取り出すことができれば、本当に人が住めるかもしれない。そう思ったのが宇宙への憧れの始まりです」

村上さんは、学部時代から一貫して、地球を含む惑星の大気観測と、その物理現象の解明に取り組んでいる。カギを握るのが、紫外線よりも波長が短い「極端紫外光」。目に見えないその光を写すカメラ(望遠鏡)の開発と、撮像したデータの解析が、村上さんの研究テーマだ。

村上さんが宇宙に特別な想いを抱くようになったのは、自由研究の宿題で、あるSF映画について調べたことがきっかけだった。

修士1年のときに手掛けた極端紫外光望遠鏡は、月周回衛星「かぐや」に搭載され、地球の横から地球上層大気を撮像することに成功した。世界初の快挙だった。そこで得られた技術は、地球以外の惑星探査への応用が進み、極端紫外光望遠鏡は、国際宇宙ステーション「きぼう」や、2013年度に打ち上げ予定の小型科学衛星1号機「SPRINT-A」に搭載されることが決まっている。また、学部実験のときに対面した観測器が、2014年には国際水星探査計画「BepiColombo」において、水星周回衛星に搭載されて打ち上げられる予定だ。

目的に向かって順調に歩んできたように見える村上さんも、実は学部3年の終わりに進路で迷ったという。「宇宙は職が少ない」という先輩のひと言が原因だった。迷いはどう振り切ったのか?

「憧れだった宇宙に携われるようになったのに、ここでやめたらもったいない。やらないで後悔するよりも、やれるところまでとことんやろうと覚悟を決めました

「かぐや」は、2009年にその役目を終え、月の軌道を離れて月面に落下した。

「『かぐや』を打ち上げてから、月を見るのが習慣になりました。いまもあそこにカメラが落ちていると思うと、日々の苦労や不安も吹き飛びます。いまは3年任期の1年目が終わったばかり。2年後の自分はまだ想像できませんが、迷ったときは月を見て、目指すべき道を見定めたいと思います

photo/貝塚純一 text/萱原正嗣