若手研究者が語る、リガクの明日

若手研究者が語る、リガクの明日

植物の遺伝情報伝達プロセスから、新しい技術を生み出す

母親と研究者の二足のわらじを履いて、植物の遺伝プロセスに迫る大谷美沙都さん。理学部で手に入れた“理”という根源的な力を武器に、異分野横断プロジェクトで社会課題の解決に取り組んでいる。

PROFILE

大谷 美沙都

理化学研究所 社会知創成事業
バイオマス工学研究プログラム(BMEP) 研究員
大谷 美沙都
大学院理学系研究科生物科学専攻修士課程修了、’05年同博士課程修了、’05〜’06年同研究科学術研究支援員、’06〜’09年理化学研究所基礎科学特別研究員、’09〜’11年同特別研究員、’11年より現職。

母親にして研究者――。理化学研究所の研究員・大谷美沙都さんが、二足のわらじを履くようになって4年目を迎える。

「出産してしばらくは、理想の母親像と理想の研究者像を同時に追い求め、現実との狭間で苦しみました。ですが、徐々に開き直れて楽になりました。子育て50点、研究50点、あわせて100点で上出来だ、と思えるようになったんです(笑)」

大谷さんは、学生のころから植物と動物の違いに着目し、その違いが生まれる原因の解明に挑んでいる。

「植物は、動物にはできないことをいとも簡単にやってのけます。挿し木や接ぎ木のように、個体の一部から新しい組織や個体を再生する変幻自在な芸当はその代表例です。そこには植物特有の仕組みがあるはずで、DNAの遺伝情報をRNAに転写した後の段階に、その謎を解くカギがあると考えています」

その仕組みを解明すれば、生物の謎に一歩迫るのみならず、植物の利活用性を高める道筋も開ける。例えば、遺伝情報の伝達プロセスを制御して、樹木のセルロースを生分解性プラスチックとして活用しやすく改変する。環境問題が社会的課題として認識されている今、循環型社会構築につながる技術の確立は社会から科学への要請だ。大谷さんの研究チームは、バイオマス資源を活用して、その課題の解決に取り組んでいる。

科学で社会に貢献する――。このこと以外にも、大谷さんがいまの研究に強く感じている魅力がある。

まったく異分野の人と一緒に研究ができるのが醍醐味です。プラスチックをつくる高分子化学の研究者との議論も、ここでは日常のひとコマです。領域を横断・融合する研究は、これからの時代ますます重要になると思います。それが、まさに現在進行形で起きています」

大谷さんは、異分野の研究者と渡り合う素地をどこで身に付けたのか?

理学部には、“理(ことわり)”を徹底的に突き詰めて考える文化があります。そのなかで研究に打ち込み、物事の本質を見極める力が磨かれたのではないかと思います。また、理学部には幅広い研究分野があり、視野を広く持つことの大切さも学ぶことができました。私が所属していた分子生物学のラボは小石川植物園にあり、隣には系統分類や生態生理学のラボがありました。ラボにいながらにして、近接分野の研究を肌で感じることができたんです。理学部の環境は恵まれています」

研究や理学の魅力を熱っぽく語る大谷さんの一日の仕事は、保育園で始まり保育園で終わる。

「結婚、出産というライフイベントは、研究のピークと重なり、女性が研究を続けるうえでハードルになっています。そのため、女性研究者の絶対数はまだまだ少ないですが、そのぶん覚えてもらいやすいのは、認められてこそ意味がある研究の世界で大きな利点です。理研は、女性研究者が働きやすい環境で、女性の数も、子育てしてから復帰する研究者も多い。周りの理解を得られれば、女性としての利点を活かして研究を続けることができます。女性も、積極的に研究の世界に挑んでほしいと思います」

photo/貝塚純一 text/萱原正嗣