若手研究者が語る、リガクの明日

若手研究者が語る、リガクの明日

この研究に人生を賭けられるか。その執着心が道を開く

理研CDBにおいてチームを率い、嗅覚の神経回路の研究において世界をリードしつつある今井 猛さん。これまでのあらゆる経験を研究に投入し、新たな世界を切り開く。

PROFILE

今井 猛

理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(理研CDB) 感覚神経回路形成研究チーム チームリーダー
今井 猛
2001年東京大学理学部生物化学科卒業、’06年東京大学大学院理学系研究科博士課程生物化学専攻修了。同研究科において博士研究員などを経て、’10年7月より現職。’09年10月よりJSTさきがけ研究員兼任、’10年8月より京都大学大学院生命科学研究科客員准教授兼任。

先を越すか、越されるか。激しいデッドヒートに息が詰まりそうだった。そして2006年9月、アメリカでの学会発表。両者が順番に研究成果を発表する。相手の発表、そして自分。自分の発表後の拍手喝采の大きさに驚いた。有名な教授から「あなたの発表がいちばん面白かった」と声をかけられた。決着はついた。

「この研究の最後のほうは競争が過酷で苦しい日々でした。相手がどんなデータを持っているのか、どこまで進んでいるのか、詳しくはわからない。そのなかで、とにかく急いで、必死に頑張りました」

大きく成長した。苦労も報われた。このときの研究をまとめた今井さんの博士論文は、科学誌の最高峰である米サイエンス誌に掲載された。そして今井さんは、サイエンス誌などが選ぶ、世界注目の若手生命科学研究者5人にも名を連ねるに至ったのだ。

今井さんの研究対象は、嗅覚の神経回路。鼻の中には約1000種類のにおいセンサーがある。そのセンサーがにおいを感知し、脳の「嗅球」という部分に伝わることで私たちはにおいを感じとる。ただ、センサーから得た情報を嗅球に伝える配線メカニズムが不明だった。その仕組みを、今井さんは5年に及ぶ大学院での研究で解き明かしたのだ。

「嗅覚の研究の先にはもちろん、脳の神経回路の謎を解明するという大きな目的があります。競争の激しい分野です。でも、それだけファンダメンタルな(=根幹をなす)研究でもあります。神経回路は生物の研究において『最後のフロンティア』とも言われます。そこに眠っているかもしれない新しいロジックや原理を見つけたいのです」

おっとりとした語り口のなかに、研究者としての激しい情熱がみなぎっている。

長野県伊那市の豊かな自然のなかで幼少期を送った。生物の研究を志したのはきっとそのころの影響が強いと言う。そして理学部の生物化学科へ。

「自分はIQは決して高くないと思っています。でも、何がなんでもこの研究をやるんだ、っていう執着心はあると思います。研究者にとってそれはいちばん重要なのかもしれません。自分が本当に問題を解き明かしたいという気合。それさえあれば、細かな技術的な問題は、必ず解決する方法が見つかるものです」

一流の研究者はみな、好奇心が強く、視野が広いと今井さんは言う。

「学生時代は、専門の勉強だけでなくいろんなことに興味を持つことが大事だと思います。一見、まったく関連がないようなこともきっとなにかの役に立ちます。研究がうまくいくかどうかは紙一重の違いです。そこで突破口となるアイディアを導くのは、幅広い、いろいろな経験の蓄積なのです。あとは、失敗を恐れないメンタルの強さもとても重要です」

研究は十中八九、失敗するものだという。その失敗からどう立ち直り、克服して次につなげていくか。研究はまさに、生きることそのものであると、今井さんの言葉から感じられる。

「この研究に人生を賭ける。そう思えるかどうかです」

脳の神経回路の解明に人生を賭けようとする今井さんの言葉は、静かだが、熱い。

photo/國米恒吉 text/近藤雄生