リガクの明日

一歩一歩考えながら研究をしていくこと。その道が未来を拓いていく。
研究者メールインタビュー
有賀寛子助教

北海道大学 触媒化学研究センター

有賀寛子助教

環境・物質科学を根底で支える固体触媒。それをナノレベルの世界から読み解こうと研究を続ける北海道大学触媒化学研究センター助教の有賀さん。各国の研究者とも議論しながらチャレンジングな環境を楽しんでいる。


PROFILE

2003年東京大学理学部化学科卒業、’05年同大学院理学系研究科化学専攻修士課程修了、’08年同博士課程修了、’06年日本学術振興会特別研究員、’08〜’09年Fritz Haber Institute of the Max Planck Society(ドイツ)博士研究員、’09年北海道大学触媒化学研究センター特任助教、’10年より現職。

Q1
研究内容を教えてください。
A.

触媒・光触媒の反応機構を原子レベルで解明することと、新しい反応機構の創出です。

触媒は化学反応を促進する物質で、身近な例ではクルマの排ガスの清浄化などに使われています。直接目にする機会は少ないですが、生活用品のほとんどは触媒反応を利用して作られています。

化学工業には不可欠で、石油精製、石油化学、食品、ファインケミカルズ、バイオケミカル、ガス精製など、幅広い分野で重要な役割を担っています。実は、触媒反応がどのように進行しているかは、ほとんど解明されていません。私たちの研究室では、特に触媒の表面構造に着目し、触媒作用と構造、物性との関連性を、原子及び分子動力学的立場から理解することを目指しています。

Q2
理学部を選択した理由と現在の研究に至るまでの経緯をお聞かせください。
A.

光触媒として広く用いられている二酸化チタンの表面を、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて原子レベルで観察。表面の原子配列によっては、通常紫外光でしか起こらない反応が可視光でも進行することを見出した。

化学系に進んで面白い物性を持つものをつくりたいと思っていましたが、化学を学べる学部はいくつかあり、進学振り分けの紙を提出する数分前まで悩みました。決定打となったのは駒場で受けた分子構造科学の授業です。量子論から物質の構造や電子状態が原子レベルで理解できることを学び、さまざまな物質を自在につくれる可能性を感じました。[創生]―[応用]より、[基礎]―[創生]に重点を置きたいと思って理学部を選択しました。

博士課程修了後は、ドイツのFritz Haber Instituteで博士研究員として1年半過ごしました。異国の文化や価値観に触れることが好きだったので、博士課程を修了したら海外で研究しようと思っていました。日本の触媒研究は世界トップレベルですが、私が過ごしたドイツの研究所も、触媒研究で世界をリードする研究所のひとつでした。名誉教授のProf. Ertlは、ノーベル化学賞受賞者で、世界各国から優秀な同年代のポスドクが集まっていました。部門長のProf. Freundを始め、いろいろな国の研究者と知り合い、彼らの興味、考え方を知ることができたことは、今後生きてくるのではないかと思っています。

北大に移ったのは尊敬する教授の研究室の公募を知り応募したのがきっかけです。フットワークの軽さもドイツで身に付けました。

Q3
女性研究者として感じることや、女性の視点が研究活動で生きていることはありますか?
A.

女性だから……と思うことは、あまりありません。ただ、学会やシンポジウムに参加する女性は非常に少なく、女性研究者がもっと増えるといいなと思います。地道さと忍耐強さが求められる研究の仕事は、女性に向いていると思いますし、女性の出産や育児をサポートするシステムも充実してきています。

Q4
平均的な一日のスケジュールを教えてください。
A.

8:30に登校し、9:00までに実験をスタート。9:00からメールのチェックとその日にやることを確認し、9:30頃から前日の実験結果に関する調べものとシミュレーション計算の途中経過を確認しました。10:30から1時間ほど、スウェーデンから来られた教授に私の研究内容を説明したところ、共同研究をすることになりました。その流れで共同研究に関する打ち合わせを終えた後は、研究室のみんなとお昼ご飯。午後は16:00まで実験の合間にデスクワーク、16:00から18:00までは研究室内のcolloquium(討論)でした。18:00から再び実験とデスクワークに戻り、終わり次第帰宅。これが、とある一日の流れです。

Q5
理学部を目指している学生にひと言お願いします。
A.

理学部で一歩一歩考えながら研究することは、どんな道に進んでも役立つ経験だと思います。“科学に国境はない”という言葉があるように、理学部の研究は、いろいろな国の研究者と同じ土俵に立ち、議論しながら進めていく非常にチャレンジングな営みです。

進むべき道を決める前に、いろいろな分野を見ておくのも大切だと思います。科学にもさまざまな分野がありますし、科学の外にも、医療や福祉、途上国支援、ビジネスなど、魅力ある舞台は数多くあります。それらを見たうえで、理学の道を志す人が一人でも多くいてくれたら、嬉しく思います。理学の道に進まれた皆さんと、どこかでお会いできるのを楽しみにしています



text/松井真平