吉川一朗 准教授(地球惑星物理学科)

吉川一朗 准教授(地球惑星物理学科)

神様しか見たことのない、宇宙の原風景を見つめる目。
教授インタビュー

PROFILE

理学系研究科 地球惑星科学専攻 吉川一朗 准教授
吉川一朗 准教授
1994年東京大学理学部地球惑星物理学科卒業。 '98年同大学大学院理学系研究科地球惑星物理学専攻博士課程を中途退学、宇宙科学研究所太陽系プラズマ研究系の助手となる。 2000年に理学博士を取得。 '05年東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻助教授、'07年から現職。

地球の周囲にはプラズマが広がっている。実はオーロラ含む、様々な現象がこのプラズマに関係しているのだ。では、このプラズマが一体何のために、どうして生まれたのか? そしてどんな役割があるのか? 極端紫外光を捉える宇宙の目で、この神秘に立ち向かうのが、吉川一朗准教授の研究領域である。

「なぜオーロラが光るのか。そして木星や土星にはオーロラがあるのに、なぜ金星や火星にはないのか。それらを突き詰めていくと、惑星周辺の何かがオーロラを光らせているという結論に達します。そしてその原因となっているものこそが惑星周囲のプラズマなんです。神秘的な現象として人々を魅了するオーロラは、その結果として起こる、ひとつの現象にすぎないんですね」

プラズマの実態を観測するためには、大気が発している特殊な光を捉える必要がある。それは共鳴散乱による太陽の光である。吉川准教授は、その様子を撮影するには極端紫外光を捉える高性能宇宙望遠鏡が必要だと考えた。しかし極端紫外光は可視光線ではないために当然、目には見えない。通常の鏡では反射率が1パーセントも満たないこの光は、レンズを通ることさえない。そこで吉川准教授は、この地球周辺のプラズマ圏を撮影するための特殊な観測機の開発に取り組んだ。やがていかにして効率よく光を集めるのかという難題を解決し、独自の技術の開発に至った。NASAに先んじての実用化である。

「具体的には鏡の鏡面コーティングです。原子10個分のミクロ反射層を多重に重ねて鏡をコーティングすることで、一層の厚みが波長の整数倍になっている多層構造を形成し、光の反射効率を高めています。光そのものが観測しにくいのならば、観測しやすくするために、光の波長に合わせて光を騙そうと考えたんです(笑)」

しかし、長い時間をかけて開発し、精巧に組み上げられた観測機器も、いったん宇宙空間に出れば様々なトラブルに見舞われる。使用されているゴムパッキンが宇宙という特殊な環境で変質してガスを放出し、望遠鏡自体を使用不能にしてしまうこともあるという。手垢や汗、普段何気なく嗅いでいる教室のにおいや空気中のチリまでもが計測器トラブルの原因になり得る。地上での常識が通用しない世界。それが宇宙空間なのだ。

それらを未然に防ぐためには、様々な確率の計算と、途方もない数の実験をコツコツと積み重ねるしかない。実際、ひとつの望遠鏡を宇宙へと打ち上げるには、実に10~15年もの長い時間を要するという。吉川准教授は観測機器を開発するだけではなく、それを打ち上げるプロジェクトそのものに関わっている。

「だからこそ、無事に宇宙に飛び立った観測機からデータが送られてきたときの感動は、他には代えがたいものがあるんです。それらのデータが既存の資料とは違うことも多いので、ひょっとして壊れたんじゃないかと思って冷や冷やすることもあります。でも、何度もデータをチェックして、観測機が正常に動いていることがわかった瞬間、きっと自分と神様しか知らない風景を見ているんだと実感できる。それは僕が科学者であることのすべてがつまっている瞬間なんです」

吉川准教授が開発した、惑星プラズマを撮影する特殊カメラが搭載された人工衛星。

白線で囲まれた部分が、その特殊カメラで撮影された地球周囲のプラズマの映像。

photo/貝塚純一 text/森オウジ