鈴木庸平 准教授(地球惑星環境学科)

鈴木庸平 准教授(地球惑星環境学科)

鉱物と生命の相互作用から、過去・現在・未来を考える。
教授インタビュー

PROFILE

理学系研究科 地球惑星科学専攻 鈴木庸平 准教授
鈴木庸平 准教授
1998年東京大学大学院理学系研究科鉱物学専攻(現、地球惑星科学専攻)修士課程修了。 2002年ウィスコンシン大学マディソン校理学特別博士号取得、同年海洋科学技術センター研究員、'05年産業技術総合研究所研究員、'10年日本鉱物科学会研究奨励賞受賞。 '11年より現職。

「酸素がない地下では、岩で呼吸したり、ウランで呼吸する微生物がいます。他にも、鉄や金、ヒ素や硝酸、二酸化炭素、硫黄など、様々な無機物で呼吸するものが確認されていて、微生物の世界では、地上の生態系とはまったく異なった元素循環が営まれていることが明らかになっています」と鈴木庸平准教授。

地上に生息する生き物(動物や植物といった真核生物)は、似たような代謝様式を持ち、酸素呼吸しかできない。しかし、微生物の生化学的反応は無限ともいえる多様性を持っている。生命誕生以来38億年、形態に多様性を持たない微生物だが、小さなサイズを保ち、エネルギーを獲得するために様々な戦略を展開してきた。

「微生物のなかには放射性物質や金属で呼吸し、それを鉱物として沈殿させ、溶液から除去する働きをするものがいます。例えば、ウランで汚染されている地下水なら、微生物の作用で水中からウランを取り除くことができる。その作用が発展すると、沈殿した鉱物が濃集してウラン鉱床ができる。つまり、微生物の活動で鉱物が地層として保存されるプロセスになっている。鉱物も、微生物を介して作られるものがあることがわかってきたんですね」

地球に生息する生物の総量のうち、半分近くが地下生物圏に存在すると言われており、地球全体のシステムを考えて、地下生物圏(地球最大の生物圏)の働きはどの程度重要なのだろうか? — それが、微生物の研究を始めた博士課程の頃、鈴木准教授が抱いた疑問だ。

「それまでは、地球の環境問題、特に放射性廃棄物の地層処分に興味があって、鉱物の研究をしていました。修士課程では、オーストラリアのウラン鉱床風化帯の調査に携わり、ウランは地球表層でどのように安定しているのかを研究しました。当初は地球環境を生物とは関係のない観点から見ていたんです。そこに微生物の世界が加わったのは、当時(1996〜'98年)、客員教授として日本に滞在中だったJill Banfield教授の影響が大きかったと思います。教授が立ち上げた地学と環境微生物学の融合分野、地球微生物学に興味を持ったんです」

ウランで呼吸する微生物の存在を知ったのもその頃。鈴木准教授は、博士課程からアメリカへ渡り、ウラン鉱床の形成や環境修復技術と関連する微生物の研究を行った。そこで硫酸還元菌がウランで呼吸し、1nm(10億分の1m)の結晶をその体の付近に沈殿させていることを世界で初めて発見した。その成果は2002年、『Nature』誌に掲載されNanogeoscienceという新しい学問領域における重要課題のひとつとなった。

「研究はフィールドワークが中心です。世界最深まで潜れる有人潜水艇『しんかい6500』で、暗黒の深海熱水噴出域に潜ったり、放射性廃棄物の処理技術を開発する施設を使い、地下500mで直接地下水や鉱物を採取したりもします。インド洋の深海熱水噴出孔付近に生息する鉄の鱗を持つ巻貝(スケーリーフット)や、地下微生物の放射性核種に対する働き、二酸化炭素の固定に果たす役割なども研究してきました。今は、生命が生存しうる極限環境(境界付近)に迫って研究を続けています」

地球史や生命史をひもとくと、微生物の活動こそが現在の生命圏を形作ってきたことがわかる。地球環境の変遷のなかで微生物たちが中心になって築いてきた生物世界の共生的進化の道。それは、生命進化の潜在能力および限界を探ることで、その中間領域に生息する生命の「幅」をも明らかにする可能性を秘めているのだ。

photo/貝塚純一 text/松井真平