濡木理 教授(生物化学科)

濡木理 教授(生物化学科)

エポックメイキングな発見に満ちた生物の新解釈。
教授インタビュー

PROFILE

理学系研究科 生物化学専攻 濡木理 教授
濡木理 教授
1993年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了、理学博士。'92年日本学術振興会特別研究員DC2などを経て、'95年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻助手、2010年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 教授、現在に至る。

約10年前、ヒトゲノムの完全解読が宣言された。そして今、最先端のタンパク質の構造解析から、生物のメカニズムそのものを明らかにする研究が進められている。もしこれが実現すれば、生物のすべてを人工的にコントロールすることが可能になる。そこは医療、創薬の分野から今もっとも期待を集める研究フィールドだ。

「たとえば、様々な生物間でタンパク質同士を比較してみると、タンパク質がどう進化していくのかが分かり、生物の系譜すらも浮かび上がってきます。つまり、タンパク質の構造を理解することは、生命の根源的なメカニズムの理解に繋がるのです」

濡木研究室では3年かけてオートタキシンというタンパク質の原子構造モデルを解明した。このタンパク質は、がんの転移や悪性化、さらには現在では完治は望めないと言われる間質性肺炎や肝硬変に関係している。教授はこの研究をもとに、民間の製薬会社と共同で、がんの転移や悪性化を抑制する治療薬の開発に携わっている。

「大学が製薬会社と共同研究でタンパク質の構造から発展させて創薬に結びつけることは今までどこもできていなかった新しい試みですし、今もっとも力を入れている研究のひとつです。この研究は原子レベルの研究なので、私たちに独自性があると同時に、何に役立つかいちばん分かるのは私たちなので、社会的な価値も考え、積極的に製薬会社にアプローチしています」

生物学の根底を解明するという知的好奇心がくすぐられる領域であるとともに、医学にも広く応用が期待される、社会性の高い学問領域であると言えるだろう。学生も積極的に研究に打ち込んでおり、研究室には活気がある。

そして濡木教授が今もっともフォーカスしているものに「膜タンパク質」の研究がある。このタンパク質は体の恒常性を司っていると言われている。なかでも先日、濡木研究室が科学誌『ネイチャー』に発表し、表紙にも採用された、膜タンパク質"チャネルロドプシン"の構造解析は、ニューロサイエンスへの多大な貢献が期待されている。

このタンパク質を脳に発現させ、特定の光を当てると、特定の神経細胞群だけが興奮する。これによってどの神経がどういう行動と結びつくかという因果関係がすべて分かるようになるというのだ。つまり、脳の機能マッピングに多大な貢献をする可能性があるのである。

「これは、現在のニューロサイエンスに革命を起こすでしょう。現在の、断片を切開して取り出すなどして行う観察生物学としてのニューロサイエンスから、能動的に脳に働きかけるニューロサイエンスにシフトすることができるのです。さらにいろんな変異体をつくることで脳神経の研究が飛躍的に向上するとともに、精神疾患の治療にも役立つでしょう」

原子レベルで生物を理解することは、私たちの医療や生物に対する考え方を一変させる。その研究に携わることは、医療や製薬など、私たちの人生に大きく関わる分野で、エポックメイキングな発見の機会に恵まれながら研究を進めてゆくことと同義だ。実にエキサイティングな研究領域だと言えるだろう。

膜タンパク質"チャネルロドプシン"。フィジカルな視点ではなく、ケミカルな視点で生物のメカニズムにアプローチする大きな一歩になる発見である。

photo/稲田平 text/森オウジ