古田研究室(数学科)

「博士になる」ということ。
長谷川修司教授に聞く、大学院進学後のキャリアパス
長谷川修司教授

長谷川修司教授/大学院理学系研究科・物理学専攻、理学部物理学科

博士は人間としての迫力が違う

— 博士課程を卒業した学生たちの進路についてですが、例年、多くの学生がポスドクとなるのでしょうか。

そうですね。平成22年度の場合は57%、110人の学生が博士研究員、いわゆるポスドクとして働くことを選択しています。ただし、各専攻によってかなりバラツキはあるようです。

— 一方では博士課程卒業者の3分の1強がポスドクにならずに民間企業などに就職しているわけですね。

博士の就職は難しいなどという偏見があるようですが、就職口がなくて困るということはまずありません。私の所属する物理学専攻でも、メーカーやIT企業、コンサルタント会社など、多様な分野に就職して活躍しています。

企業は博士にものすごく期待しています。入社するとすぐに管理職に抜擢されて、若い人をマネージメントする立場に立つことが多く、博士課程を通じて一つのことにとことん取り組んだという経験が評価されるようです。企業の方々からよく聞くのは、「博士と修士とでは迫力が違う」ということですね。独創的な研究を達成しないと修了できない、そういう修羅場をくぐってきた博士取得者には人間としての迫力があるということです。私も同感です。博士課程という厳しいハードルを乗りこえてきたということだけでも、実に称賛に値することです。やはり、そういう厳しさという点では、修士は博士に及ばないということでしょうか。

— 博士課程を修了して就職することに、「研究者になれなかった」という挫折感を味わう学生はいませんか。

「ノーベル賞への道から脱落した、オレは負け犬です」みたいなことを言う学生もいますね(笑)。もちろん、ノーベル賞を狙うだけが人生ではありません。もっと視野を広く持つようにと、そういう学生は励ましたいですね。

— 博士課程で学ぶうえで必要なことはなんでしょうか。

これは、学者の道を歩もうと考えている学生にも、就職を選択する学生のどちらにも言えることですが、流行や情報に惑わされないということです。時代のせいか、研究においても世界の流行に乗らないとダメだと思い込んでいる学生が多いようです。でも、研究一筋に取り組むには周囲の情報に振りまわされていてはダメなんです。流されないことが大事なんです。

だからといって、視野が狭くてもいけません。一つのことを突き詰めることと、視野が広いことは矛盾しません。広い視野の中で自分の研究を位置づけることができないといけないんですね。バランス感覚が大切です。

博士課程は「最後の訓練」の場なんです。その経験を踏まえて、ポスドクも含めたいろんな分野へと旅立つ。そのためには広い視野と、一つのことを突き詰める粘り強さ持っていないとだめなんですね。それが博士課程で学ぶために必要なことだと思います。

修士課程は目標をさがす2年間

— 修士課程を卒業して就職を選択する学生も多いですね。

学部のときは勉強が忙しくて自分の適性や未来のことはあまり考えられません。ですから修士課程に進んだときに、ようやく自分の適性がわかってくるんですね。そして研究者以外のやりたいことが見えてくるんだと思います。自分の目標がはっきり見えたので就職という道を選ぶのも、とても素晴らしいことだと思います。

修士に進まず、学部卒業で就職という選択をする学生もおります。彼らもまた自分のやりたいことがはっきりと見えているんです。私の知っている学生の一人に、物理学を利用したゲームを作りたいとIT企業に就職した人がいましたね。学部卒業、修士課程修了で就職を選択する学生の多くが、そういう目的意識をはっきりと持っているようですね。

— ということは、一方では目標が見つからないので修士に進むという学生も多いということでしょうか。

言葉は悪いですが「とりあえず修士へ」という学生は多いと思います。でも、私はこれをポジティブにとらえたいですね。先ほども言ったように、修士課程の2年間で自分の目標を見つけ出し、就職か博士課程かの決断をするわけですから。言いかえれば、博士課程に進む前に、真剣に自分の目標、将来について考えることが大事ですね。

ただ、これだけは伝えたいのですが、どんな専攻に行っても、研究を、就職に役立つ、役立たないという近視眼的視点でとらえてほしくないということです。そのときどきの研究を脇目もふらずにやり遂げればいいんです。それがその人の大事なバックグラウンドとなり、人生にプラスに働くのです。大学は職業訓練校ではありません。青春時代を、学ぶこと、研究することに費やし、やり切ること自体が重要であって、その経験は就職したあとに生きてくるのです。

東大理学部は100年以上にわたって、多くの優れた人材を輩出してきました。それは、すぐに役立つことを教えるという近視眼的な学びではなく、深い洞察力と先を見通す力、全体を見わたす力、そして粘り強い思考力、そういったトップに登りつめるリーダーとしてふさわしい能力を、研究を通じて培ってきたからなんですね。

理学部の卒業生はどの分野においても素晴らしい活躍を見せています。不思議でもなんでもありません。当然のことなんです。

修士課程・博士課程修了後の進路(平成22年度)

修士課程・博士課程修了後の進路(平成22年度)

理学部の教職員構成(平成23年度)

理学部の教職員構成(平成23年度)

理学部の学生構成(平成23年度)

学科 3年生 4年生
数学科 45人 (男44/女1) 60人 (男60/女0)
情報科学科 25人 (男25/女0) 41人 (男41/女0)
物理学科 73人 (男67/女6) 73人 (男70/女3)
天文学科 9人 (男9/女0) 9人 (男9/女0)
地球惑星物理学科 30人 (男24/女6) 41人 (男37/女4)
地球惑星環境学科 18人 (男15/女3) 23人 (男19/女4)
化学科 45人 (男41/女4) 51人 (男41/女10)
生物化学科 23人 (男15/女8) 26人 (男17/女9)
生物学科 21人 (男11/女10) 21人 (男18/女3)
生物情報科学科 11人 (男11/女0) 13人 (男11/女2)

理学系研究科の学生構成(平成23年度)

修士
専攻 1年 2年
物理学専攻 108人 (男104/女4) 111人 (男105/女6)
天文学専攻 16人 (男13/女3) 19人 (男17/女2)
地球惑星科学専攻 83人 (男70/女13) 95人 (男78/女17)
化学専攻 67人 (男51/女16) 72人 (男67/女5)
生物化学専攻 23人 (男15/女8) 36人 (男26/女10)
生物科学専攻 56人 (男33/女23) 59人 (男35/女24)
博士
専攻 1年 2年 3年
物理学専攻 72人 (男70/女2) 58人 (男53/女5) 70人 (男63/女7)
天文学専攻 15人 (男13/女2) 12人 (男9/女3) 17人 (男12/女5)
地球惑星科学専攻 27人 (男19/女8) 26人 (男23/女3) 47人 (男39/女8)
化学専攻 22人 (男20/女2) 23人 (男19/女4) 24人 (男18/女6)
生物化学専攻 21人 (男17/女4) 22人 (男17/女5) 34人 (男22/女12)
生物科学専攻 28人 (男19/女9) 25人 (男20/女5) 51人 (男26/女25)

photo/稲田 平 text/太田 穣