~ 大学院生からのメッセージ~

計算機の中の 
「天の川銀河」

朝野 哲郎
 Tetsuro Asano
 (天文学専攻 博士課程1年生)

夜空に輝く天の川は,われわれの住む天の川銀河(銀河系)を太陽系の視点で見たものであるが,銀河の外からは,どのような姿に見えているのだろうか。これまでのさまざまな観測から,天の川銀河は,棒状構造(バー)と渦状腕という構造をもつ円盤銀河(棒渦巻銀河)であると推定されている。しかし,われわれ観測者自身が銀河系内部に存在し観測可能な範囲も限られるため,詳細な全体像は明らかになっていない。 私は,天の川銀河の力学的構造とその形成進化に興味をもち,とくにバーや渦状腕などが銀河を構成する星の運動に与える影響に着目して研究に取り組んできた。

N体シミュレーションで作られた天の川銀河の姿。
上:銀河を正面から見た姿。
下:横から見た姿。筆者が解析を行ったM S Fujii et al. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society  482, 1983(2019)のデータから作成

星の軌道運動や銀河自体の構造の変化などを直接観測することは非常に困難である。銀河の力学的なタイムスケールは,人類の歴史に比べて極めて長く,われわれは静止画的にしか銀河を観測することができない。この困難を乗り越える方法の一つは,数値シミュレーションを用いることである。私が用いているのは,N体シミュレーションと呼ばれる手法である。N体シミュレーションとは,銀河を多数の粒子の集合として表現し,粒子間に働く重力を評価しながら個々の粒子の軌道と銀河全体の力学的進化を計算する手法である。図は,天の川銀河を再現したN体シミュレーションの一例である。私のこれまでの研究では,シミュレーションデータを解析して星の運動を調べてきた。銀河円盤を構成する星たちの多くは,銀河中心の周りをほぼ円運動しているが,中には共鳴軌道という特別な軌道をもつ星が存在している。これは,回転するバーの影響で作られるものである。共鳴軌道をもつ星たちは,一般的な円盤の星とは異なる運動をしているため,特殊な速度分布をもった星の集団を形成する。じつは,太陽系の近傍の星の観測でもこれに似たものが見られていて,速度空間サブ構造などと呼ばれている。私は,シミュレーションとGaia(ガイア)衛星注の観測データを比較することで,実際に観測されている速度空間サブ構造もバーの共鳴軌道で作られている可能性が高いことを示した。さらに,太陽系の近傍で共鳴軌道が見られるための条件を用いて,直接観測が難しいバーの回転速度を間接的に推定することができた。

このような研究分野は,銀河動力学と呼ばれ,天文学において比較的古い分野である。長年研究されてきた分野であっても,最新観測や大規模なシミュレーションによって,新発見がもたらされるというところに,私は研究の魅力を感じている。 今後とも,シミュレーションを使ってGaiaの観測データを読み解いていくことで,天の川銀河の構造と形成進化の歴史について,より深い理解が得られていくだろう。

    Profile
出身地 長崎県
出身高校 長崎県立佐世保北高校
出身大学 東北大学理学部


 

理学部ニュース2021年11月号掲載



理学のススメ>

  • このエントリーをはてなブックマークに追加