小惑星リュウグウ上で最も始原的な岩石を発見

杉田 精司(地球惑星科学専攻/宇宙惑星科学機構 教授)

諸田 智克(地球惑星科学専攻/宇宙惑星科学機構 准教授)

橘 省吾(宇宙惑星科学機構/地球惑星科学専攻 教授)

諸田 智克(地球惑星科学専攻 准教授)

 

 


まず,なぜ始原的な物質は重要なのか?惑星は統計力学でいうところの散逸系をなすので,時間と共にエントロピーが増大して初期状態の情報を失っていく。そのため,終状態の観測から初期状態を知ることは困難である。しかし,惑星は複雑系でもあるため,初期状態の小差が終状態の大差を生みうる。それゆえ,なるべく初期の情報を持つ始原的物質を得ることが,惑星進化の理解にとって重要である。JAXAの「はやぶさ2」やNASAのOSIRIS-RExが始原的天体を探査する理由もここにある。

さて,始原的な物質かどうかはどう見分けるのか?惑星は微惑星の衝突・合体で形成したと考えられているが,微惑星は原始太陽系星雲内で細かい塵が集まって作られる。そのため,微惑星はホコリ玉のように中がスカスカ(空隙率が高い)構造を持つのである。その後に,微惑星が衝突合体して大きな惑星に成長する過程で,自己重力で空隙は潰れて空隙率は減少する。そのため,空隙率の高い物質ほど始原的で原始太陽系星雲の情報をより良く保持している可能性が高いのである。

図: 小惑星リュウグウ上のクレーター底面に見つかった高い空隙率の岩石(Sakatani et al., (2021) を改変)。 左図:輝度温度マップ。高空隙率領域は熱伝導率が低いために周囲より高温になっている。右図:光学カメラ画像。高空隙率領域には鋭い破断面を持つ亀裂が多く見られる。高温域は周囲より暗い色をしているが,この反射率差で生じる温度差は1%未満と非常に小さい。  

空隙率が高い物質は低い熱伝導率を持つ。熱伝導率が低い物質は太陽光で表面から熱せられると,熱が地下に逃げないために速く昇温する。そこで,小惑星の朝から昼に熱赤外カメラで計測すれば,空隙率の高い物質は周囲に比べて高温に見えることになる。この性質に着目して赤外カメラ画像を解析したところ,一部の小さなクレーターの中心付近に異常に高温になる岩石群が見つかった。詳しい解析の結果,この岩石群はリュウグウの平均的な岩石の空隙率(30〜50%)よりずっと高い約70%の空隙率を持つことが分かった。この値は,彗星の空隙率と競る高い値である。これは,リュウグウで見つかった中で最も始原的な特徴を持つ物質である。

リュウグウには,他にも平均的な物質と反射率やスペクトル形状が異なる小さな破片が多数見つかっており,リュウグウの母天体の様々な部位に由来する物質や母天体と衝突した天体に由来する外因性物質だと推定されている。こうした多様な物質が,上記の始原的物質と共に,リュウグウの地球帰還サンプルの中に今後発見される可能性がある。今後のサンプル分析の結果が期待される。

本研究成果はN. Sakatani et al., Nature Astronomy 印刷中(2021)および E.Tatsumi et al.,Nature Astronomy 5, 39( 2021)に掲載された。

(2021年5月25日プレスリリース)

理学部ニュース2021年9月号掲載


 

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