星の温度の正確な測定を目指して

谷口 大輔 (天文学専攻 博士課程2年生)

松永 典之(天文学専攻 助教)

 


星空は季節ごとにさまざまな表情を見せる。中でも冬の星空の一角を占めるオリオン座は,対照的な色をもつ二つの一等星があって,強い存在感を放つ。左足に輝くリゲルが青白い超巨星であるのに対し,右肩に輝くベテルギウスは赤色超巨星と呼ばれる種類の赤い星である。これらの色は星の表面温度に関係していると高校理科で学ぶが,その温度はどのように測定されるのだろうか?

もっとも基本的な温度測定法は干渉計を用いた視直径測定にもとづくものだろう。星の見かけの明るさはその視直径と表面温度によって変わるので,見かけの明るさと視直径が観測で得られれば残る温度を計算できる。この方法はリゲルのような青い星や,赤色巨星(赤色超巨星と似た色だが少し小さく暗い星)には有効だが,ベテルギウスのような赤色超巨星に対してはそううまくいかない。ベテルギウスの視直径は過去100年以上にわたって測定されてきたが,今では観測波長によって大きさが異なることが知られている。これではどの波長で測定した視直径をもとに温度を計算すればよいかわからない。

赤色超巨星の分光スペクトルに見られる分子吸収線(主にTiO分子;低温で吸収が強くなる)の強度を,恒星大気モデルを介した理論計算と比較する手法も試みられてきた。しかし,この手法の正確さにも疑問が残る。赤色超巨星の表面にある明暗のまだら模様や,恒星大気外縁部に大きく広がる分子光球という領域を正確にモデル化することは現在でも難しい。

以上の問題を鑑みると,恒星大気モデルに依存せず分子吸収線を使わない温度測定法が望ましい。そこで,われわれは近赤外線のうち 0.97~1.32μmの恒星スペクトルに現れる鉄原子吸収線の深さを用いる経験的手法を用いた。2本の吸収線をうまく選べば,その深さの比(ライン強度比)と星の温度との間にきれいな相関関係が見つかる。この関係を温度が既知の赤色巨星の観測によって較正すれば,赤色超巨星に適用してその温度を正確に測れるはずだと考えたのである。

図:ライン強度比と温度の間の関係の例。干渉計などを用いた観測ですでに温度がよく知られている赤色巨星でのものを示した。ここで得られた関係を適用することでベテルギウスなどの赤色超巨星の温度を測定した。
左図:赤色巨星のスペクトルの例(温度が高い順)。左側の鉄原子吸収線は温度が異なる星でも深さが変わらないが,右側の鉄原子吸収線は低温の星ほど深くなっている。
右図:この 2本の鉄原子吸収線の深さの比(ライン強度比)と温度の関係。

実際に,図に示すようなきれいな関係が多数見つかり,太陽近傍にある10個の赤色超巨星の表面温度を測定することに成功した(ベテルギウスは 3611K)。今後,大小マゼラン雲などの近傍銀河に属する赤色超巨星の観測を進めれば,さまざまな環境下の赤色超巨星の温度を正確かつ簡単に測定できるようになると考えている。それらの温度を恒星進化理論と詳しく比較することで,赤色超巨星になる星がどのような進化を経て超新星爆発による死を迎えるのか,という恒星物理学と銀河天文学の両分野にまたがる重要な課題にアプローチできると期待している。

本研究成果は D. Taniguchi et al. , Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 502, 4210 (2021)に掲載された。

(2021年3月1日プレスリリース)

理学部ニュース2021年7月号掲載



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