先史人類の行動を人口シミュレーションで探る

井原 泰雄(生物科学専攻 講師)

 


現生人類による渡海の開始時期については議論がある。考古学的証拠によれば,サフル大陸(現在のオーストラリア,ニューギニアを含む陸塊) には遅くとも3万千年前(もしかすると6万5千年前)には人類が到達していた。日本では,3万5千~3万年前に琉球列島の全域にホモ・サピエンスが出現している。琉球列島には比較的小さな島が互いに離れて配置されているうえ,黒潮を含む複雑で強い海流があることから,航海は容易ではなかったはずだ。移住の成否の鍵を握るのは航海技術だけではない。屈強な男たちが力を合わせて舟を漕げば航海の成功は近づくかもしれないが,彼らだけでは子孫を残すことができない。集団の持続のためには,舟に乗る移住者の数や年齢・性別構成が適切でなければならないのだ。

私たちは,島に到達した十人程度の移住者とその子孫が誕生,結婚,死亡する過程を計算機上で繰り返しシミュレーションし,集団が持続する確率(絶滅する前に500人に達した割合とした)を計算した。当時の人類の年齢別死亡率や出生率に関する情報がないため,現実的な死亡率と出生率の範囲を近現代の狩猟採集民の記録から特定しそれらを網羅的に組み合わせた7×7通りの仮定 のもとでシミュレーションを行った。狩猟採集民が主として家族単位で移動することから,偶然の漂流のシナリオでは複数の家族(それぞれ成人男女一組と数名の子からなる)を乗せた舟が島に流されることを想定した。一方,到達した島に定住することを前提とした計画的移住では,男女同数の非血縁の若者(18~22歳)が舟に乗ることを仮定した。

   
偶然の漂流(ブルー)と計画的移住(ピンク)に由来する集団が持続する 確率。49通りの死亡率・ 出生率の組合せのそれぞれについて確率を求め,その分布を初期移住者数 ごとに箱ひげ図で示した。

 

シミュレーションの結果から,(1)十人程度の男女による計画的移住には,現実的な死亡率・出生率の範囲内で集団持続の十分な見込みがあること,(2)同人数でも複数の家族による偶然の漂流では集団持続の見込みが大きく減少すること,(3)しかしながら,死亡率と出生率の組合せによっては,偶然の漂流にも無視できない程度の集団持続の可能性があることなどが示された。図は,7×7通りの死亡率・出生率の組合せのそれぞれについて,偶然の漂流(ブルー)と計画的移住(ピンク)に由来する集団が持続する確率を求め,その分布を初期移住者数ごとに示したものである。

これらの結果は,後期更新世の現生人類による島への進出が,ごく少数の移住者により計画的に開始されたという仮説に理論的根拠を与えるものである。一方で,仮に漂流による島への到達が可能だったとしても,その後の集団の持続が困難であることから,偶然の漂流のシナリオは積極的には支持されない。また,きわめて好適な条件の下では少数の漂流者に由来する集団の持続もあり得たという知見から,より古い時代のホモ属によるインドネシア・フローレス島への進出は偶然の漂流で説明できるかもしれない。

本研究成果はY. Ihara et al ., Journal of Human Evolution 145, 102839 (2020) に掲載された。

(2020年8月5日 UTokyo FOCUS)

理学部ニュース2020年11月号掲載

 

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