ナノサイズの人工構造が生み出す新しい光

小西 邦昭(フォトンサイエンス研究機構 助教)

五神 真(物理学専攻 教授(現 東京大学総長))

 


約60年前に集積回路が発明されてから今日に至るまでの,現代のスマートフォンに代表されるプロセッサの急速な進化は,半導体微細加工技術の進歩に支えられてきた。その結果,トランジスタのゲート長は現在10nm以下となっている。一方,われわれが目にする可視光の波長は,およそ350nm~750nmである。すなわち人類は,光の波長よりもはるかに小さな構造体を,金属や半導体で自在に作製する手法をすでに手にしている。

分子や原子がその種類に応じて様々な光学応答を示すのと同様に,光の波長より小さな人工構造に入射した光は多様な振る舞いを見せ,吸収,散乱,偏光などの特性が変化する。ここで,人工構造の光学応答を決める鍵となるのは,その形と配列である。すなわち,ナノレベルで形状とその配列構造を適切に設計・作製することによって,新たな特性を有する人工光材料を生み出すことができる。このような考え方に基づく光の制御は,近年ではメタマテリアル・メタサーフェスと呼ばれ,光学の新たな研究分野となっている。

 
4回回転対称人工ナノ薄膜構造を用いた,可視光円偏光から真空紫外円偏光への波長変換の概念図

作製可能なナノ構造は無限にある中で,どのような形や配列にすれば,所望の光学応答が得られるのであろうか。物理学は,このような問いに大きな指針を与えてくれる。そのひとつが,構造の回転対称性の活用である。「N回回転対称性」とは,ある軸の周りに構造を360/N度回転させた場合に,もとの形と一致する性質のことである。光の進む方向を軸として回転対称性を有する人工ナノ構造は,電場の波が光の進行方向に対して,らせんのように回転する光である円偏光の波長変換を可能にする。波長変換とは,物質が,入射した光のn分の1の波長の光を放出する現象であるが,これを光の量子であるフォトンの描像で考えると,入射したn個のフォトンが,そのn倍のエネルギーを持つフォトン1個に変換される。ここで,円偏光の角運動量の保存について考えてみよう。円偏光フォトン1個あたりの角運動量の大きさはħと決まっているため,フォトンの総数がn個から1個に減少すると,波長変換の前後で光の角運動量の総和が保存せず,このような物理現象は生じない。しかしながら,構造に(n+1)回回転対称性があると,あたかも構造が光の角運動量の変化分を相殺するように回転したかのように光が錯覚し,構造に余分な角運動量が移ることができるため,円偏光での波長変換が可能になる。

この考え方に基づいてわれわれは,真空紫外光と呼ばれる波長200nm以下の円偏光を,回転対称性を有する人工ナノ構造を用いて発生させることに成功した。実験に用いた試料は,図に示したように,直径190nmの開口が正方格子状に周期600nmで開いた,厚さ48nmの薄い誘電体自立膜である。この構造は,面に垂直な方向を回転軸として90度回転させると元の形と同じになるため,4回回転対称性を有している。このため,構造の垂直方向から波長470nmの円偏光のレーザーを照射すると,その3分の1の波長(157nm) の円偏光に波長変換されることを明らかにした (図)。真空紫外の円偏光は,生体分子の立体構造や物質の電子状態などを検出できる有用な光であるが,発生が非常に難しいという問題があった。本手法は,人工構造にレーザー光を当てるだけという簡便な手法であり,真空紫外円偏光を用いた新たな分光技術開発の幕開けとなる可能性を有している。

本研究成果は,K. Konishi et al ., Optica 7, 855 (2020) に掲載された。

(2020年7月21日プレスリリース)

理学部ニュース2020年11月号掲載

 

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