「FLORA 図鑑 植物の世界」
塚谷 裕一(生物科学専攻 教授)
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魅力的なカラー写真満載の大型本である。写真一つひとつが実にダイナミックで躍動感溢れている。それもそのはず,原著者はかのスミソニアン協会とキュー王立植物園。植物フィールド調査の世界的牙城が担当しているのだから当然だ。写真だけでたっぷり楽しめる。
しかもこれは植物の図鑑ではない。植物の世界の図鑑である。だから植物の基本的な用語説明や分類などは割と軽く済ませてあって,むしろ昆虫や鳥との関係,環境への適応,繁殖など,植物の生のあり方についていろいろな側面から紹介している。それに加えてコラム的に,芸術作品における植物のあり方も紹介しているのは,本書の特徴のひとつだろう。それこそ幼い子どもから大人まで,それぞれに楽しめる本となっている。
日本語版の作成にあたっては私が監訳を担当した。今では欧米の花卉,野菜,果物などは普通に日本でも出回っているため,本書で例示されている植物中,日本で馴染みのないものは少数で,日本語での呼称の割り当てにはほとんど困らなかった。ただ面白かったのは,日本でもそうなのだが,分類・野外生態系の研究者が生理的な話に言及すると,えてして勘違いから誤った解説がなされることがある。本書でもそういう間違いがいくつか見つかったため, 日本語に訳すにあたってそれらは訂正させていただいた。したがって日本語版は,原著よりもさらに正確である。自信を持ってお薦めしたい。
理学部ニュース2020年11月号掲載