複合的現象に臨む

後藤 和久(地球惑星科学専攻 教授)

講義の準備で,私の専門である地質学の歴史を見直す機会があった。アリストテレス,レオナルドダビンチ,デカルト・・・。地質学とは無縁に見える偉人達も,地球や化石に魅せられて研究史に足跡を残している。地質学の父と呼ばれるニコラス・ステノは,医学者であり宗教家だった。進化論で有名なダーウィンも,地質学の重要な本を出版しており,私から見れば立派な地質学者だ。19世紀頃までは,名が残る研究者の中で地質学だけを専門にしていた人はどれほどいたのだろうかと思える。

個性豊かな先人達に共通点を見出すならば,学問分野にとらわれない視野の広さと,不思議に感じたことは何でも理解したいという知的好奇心の強さではないか。興味の前に専門分野は本来関係ないし,知的好奇心が大きな発見にいたるモチベーションになるのは間違いないだろう。そのような能力と研究スタイルに少なからず憧れを感じるし,専門分野に細分化された今の科学界に身を置いていると,簡単ではないようにも思える。ただ,ひとりの力で実現できなくても,学際連携により専門を超えた大きな研究をすることもできる。 私は過去の巨大津波の研究をしているが,地球科学の諸分野だけでなく工学,歴史学,考古学者などとも一緒に仕事をしており,彼らの協力で私一人では到底なしえない研究を実施できている。

         
歴史時代の巨大津波で打ち上げられた石垣島の直径数メートル大の塊状ハマサンゴ群.地質学,サンゴ礁地形学,海岸工学,歴史学,考古学の学際連携研究により,津波の実態が明らかにされつつある(撮影:後藤和久)。

学問の細分化の見直しに関する議論は昔からあり,地球惑星科学専攻も例外ではない。細分化の良し悪しの問題ではなく,気候変動,生態系保全,自然災害など,地球と人間を取り巻く諸課題はさまざまな要因が複雑に影響しあっており,細分化された専門分野だけから解決策を導き出すのは難しいことが多いのが実情だ。問題の本質に迫るために学際連携により最先端の研究を進めることは一つの道であるが,それと同時に,知的好奇心に富み,現象を多角的に観察し,学問分野を易々と超えて問題解決へと導くことのできる人材を育成したいという思いがわれわれにはある。そこで生物科学専攻等と協力して立ち上げたのが,複合的現「象」に直に「臨」む教育研究のあり方を追求する「臨象理学プロジェクト:人間・社会の未来に関する理学創成」である。
https://www.u-tokyo.ac.jp/adm/fsi/ja/projects/sdgs/projects_00193.html

臨象理学では,自然現象や人間社会の諸現象や課題を直に体験できるよう,野外や実務の現場を含む実習教育を大事にしたいと考えている。最近,植物学の先生方とは,地質や地形と植物の分布の関係性など,来年度の共同実習実施の可能性について楽しく相談させて頂いている。伊豆小笠原諸島,房総半島,日光・・・,候補地もたくさん挙がる。議論の中で,5年,10年と実習を継続して共同でデータを取り続け,長期的な研究にできないかなど,共同研究のアイデアも出てきた。期待を込めて大げさに言うならば,次の時代のダーウィンが生み出される素地が,ここに着々と整いつつある(かもしれない)。

理学部ニュース2020年11月号掲載



1+1から∞の理学>

 

 

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