理学で挑む実用材料開発 - 最高性能の透明電極 -

中尾 祥一郎(元・化学専攻 特任研究員)

長谷川 哲也(化学専攻 教授)

 


この文章をPCやスマホで読まれている諸氏も少なくないだろう。その際には電気も必要だが, 2019年には太陽光発電は日本における総発電量の7.4%に達した。今やわれわれの生活に必要不可欠な液晶ディスプレイや太陽電池には透明電極(透明導電体を用いた電極)が必要であり,その特性がデバイス自体のコストや性能を左右する。

透明導電体とは,透明なのに電気を流すことが出来る(一見)不思議な材料である。その仕組みは,可視光を透過できる程度のバンドギャップを持つ半導体に透明性が維持できる程度の電子濃度(典型的な金属より1~2桁程度少ない量)をドーピングにより付与し,電気伝導性を持たせることにある。

ここで,透明導電体を透明電極として用いる際には,形状に制限があることに注意する必要がある。すなわち,0.1~1マイクロメートルの厚さの透明導電体の薄膜をガラスなどの基板の上に形成し,その上に発電層や発光層などを積層した後,微細加工技術を駆使して最終的な製品とする。残念なことに,薄膜においては組成のズレや結晶の不完全性などの理由により材料本来の性能が発揮できない場合が多い。その理由を解明することが高性能な透明電極の実用化に繋がる。

透明電極の性能は移動度(電場によって電子や正孔が固体中を移動するときの移動のしやすさを表す値)で議論することが多い。電気伝導率が移動度とドーピングで決まる電子濃度の積に比例するからである。移動度の理論上限は材料自身の格子振動による散乱と,ドーパントによる散乱で見積もられる。図に太陽電池電極の実用材料である二酸化スズの移動度の理論上限値と文献値を示す。実際の移動度の値は商用薄膜では理論上限の1/3~1/10程度,基礎研究の高品質薄膜でも2/3程度の値しか報告されていない。

 
電子濃度に対する二酸化スズの移動度の比較。本研究で作製した薄膜(赤シンボル)は最高値130cm2V-1s-1を示し,移動度の理論上 限(緑実線)とよく一致する。

今回われわれは,タンタルのドーピングにより電子濃度の異なる二酸化スズ薄膜を系統的に作製し,その特性を調べた。驚くべきことに,ある条件において非常に高い移動度130cm2V-1s-1が得られ,その値は理論上限に一致した(図)。もちろん,二酸化スズ薄膜における過去最高の値である。詳細は割愛するが,面欠陥の生成とそれを抑制する成長方位の選択が鍵であった。

今回の発見は単なる値の向上に留まらない。現在,太陽電池の開発の一つの大きな流れは近赤外光の有効利用である。その際,透明電極にも赤外光に対しても透明性が要求される。赤外透明性は更なる低電子濃度化とそれを補う高移動度化によってのみ実現可能であり,今回の発見が近赤外光を利用する次世代太陽電池の変換効率向上に寄 与することを期待している。

本研究成果は M. Fukumoto et al ., Scientific Reports , 10, 6844 (2020) に掲載された。

(2020年4月22日プレスリリース)

理学部ニュース2020年9月号掲載



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