理学部オープンキャンパス

田中 培生(天文学教育研究センター 准教授)

 

太陽が燦々と輝く8月初め,理学部1号館は高校生であふれていた。これがここ数年の私のオープンキャンパス実行委員長としての夏の風物詩だった。多くの高校生が「理学」 に惹かれ,彼らの理学部で勉強したいという思いがひしひしと伝わってきた。思い返せば,私も半世紀近く前,限られた情報にもかかわらず(もちろん当時は,オープンキャンパスなど,どの大学でもなかった),理学部で勉強したいという思いを持っていたことが,懐かしく思い出される。

理学部とはどういう学部か?と聞かれると,いろいろな答(こたえ)があるだろう。私は,高校生の頃から生物系は苦手で,大学から大学院,そして今まで,物理・天文系の道を進んできた。特に,天文学に携わってきたことは本当に良かったと思ってはいるが,一方で,近年,自分の興味が,自分の限られた専門から,自然科学全般にかなり幅広く発散していることに気がついている。天文学での究極のテーマの一つに宇宙論があり,138億年前,宇宙がインフレーションによってビッグバンで始まったということが,理論・観測両面から分かってきた。インフレーション宇宙論の提唱者である佐藤勝彦東京大学名誉教授の本を読んだり講演を聴くと,本当にわくわくする。そんな宇宙論の専門家達は,現在のもう一つの究極のテーマである宇宙における生命の存在についての探求にも手を広げている。例えば,天文教室の戸谷友則教授も,「0×∞=生命の起源!?」(理学部ニュース2020年7月号52巻2号)で宇宙の創成と生命の発生の確率について書いている。私には,詳しくはよくわからないが,彼の一般書はたいへん興味深く読んだ。

宇宙はビッグバンの後,現在も膨張しながら,銀河・星を形成して,生命が誕生・進化してきた。私は,大質量星の進化に興味を持って研究してきたが,宇宙の中で,恒星が誕生して死んでいくことが私たち人間にとってどんな意味を持っているのだろうか?と考え始めると,やはり,宇宙の創成から生命の誕生・進化までを一本の道で繋ぐような理解がしたいと思う。ここ10年あまり,駒場での全学自由ゼミナールや一般講演(理学部オープンキャンパスや国立天文台特別公開など)で,自分の専門をかなり逸脱した話をしてきたが,物理学・化学から,地球惑星科学・生物学までのすべての分野に関わる,これが理学なのかな,と自分で納得している。

このような広い視野で自然を見つめられる場としての理学部は,現在の複雑な社会情勢の中で,最も基本的で大切な場なのではないか。多くの高校生がたとえ今の興味はその中の一つの分野だったとしても,理学を選んでくれることを純粋に嬉しく思う。



小柴ホールでの講演風景

2020年度は新型コロナウイルス感染症のせいで,オープンキャンパスがWEBでの開催となり,日本の将来を担う多くの高校生の顔が見られないのは残念だけれど,数年にわたってこれに関われたことは,とても良かったなと思う。 実際には,多くの先生方・学生の皆さん・総務課や広報室などの事務の皆さんの尽力の賜なのだが,その中でも,準備から当日までのすべての細かなことに目を配ってくれた 広報室の菅原栄子さんとの二人三脚での数ヶ月間は,とても強く記憶に残っており,「理学」を体感させてもらった貴重な場としてのオープンキャンパスであった。

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理学部ニュース2020年9月号掲載

 



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