特別記事:

新型コロナウイルス感染症に対する

 

活動再開に向けた理学部の対応

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による非常事態宣言がようやく解除され,
東京大学では感染の状況を注視しながら,徐々に活動制限を緩和していきます
(2020年6月1日東京大学総長メッセージより一部改編)。
しばらく続くであろうWith-Coronaでの生活はどのようになるのか,
日常・情報ともに新しい価値を目指して進むための一端となるよう,
今回の特別記事を理学系副研究科長の山本智教授と
国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の横山広美教授にお願いした。(広報誌編集委員会)

活動再開への新たな挑戦 
山本 智(理学系研究科 副研究科長・評議員/物理学専攻 教授)

2020年春,キャンパスは見たこともない光景でした。いつもなら大勢の人で溢れていた平日の昼間でもほとんど人に出会うことがないのは,「静か」を通り越して,とても寂しいことでした。この春から本郷に進学,あるいは大学院に入学してきた皆さんは,特に戸惑いを感じているかもしれません。これは教職員にとっても同じです。経験したことのない事態にあって,教育研究の灯を守り続けるために,手探りのチャレンジが続いています。Sセメスターの授業はオンラインでスタートしました。研究室活動も可能な限りオンラインになっています。学生の皆さんにはいろいろ不便をかけていますが,皆さんのご協力と担当教員の頑張り,各学科・専攻,教務委員会,そして事務関係者の努力もあって,このような取り組みは軌道に乗ってきているように思います。

6月に入り,社会経済活動の再開が徐々に進んでいます。それに伴い,大学の活動制限レベルも段階的に緩和され,6月15日からはレベル1(30%レベル)になっています。実験,実習など,これまでできなかった活動についても再開の準備が進み,今後,遅れを取り戻していくことになります。 卒業や学位を今年度に控える学生の皆さんは特に心配でしょうが,時間をできるだけ有効に使って頑張ってください。就職活動も例年よりは遅れいるようですが,皆さんの健闘を祈ります。

このような行動制限緩和の進行を見ていると, 以前のように学生教職員が大学に集う日常も遠くないようにも思います。しかしコロナウイルスがなくなったわけではなく,また有効な治療薬やワクチンがない現状は変わりません。世界に目を向けると,感染は新たな広がりを見せています。コロナウイルスと付き合う日々がこれからも続くことは覚悟しなければなりません。その中で,ひとつの課題は人の交流,特に国際交流です。国際化を一つの目標として掲げている理学系研究科・理学部にとって,これは厳しい現実です。これに対しては,海外の大学との大学院講義のオンライン共有などが検討されはじめています。いっぽう,相手国を訪問し,交流を深め,また,異文化に触れることも,若い人にとってやはり大事なことです。現在,いくつかの国際交流プログラムは募集を中止していますが,許される状況になれば,これらのプログラムを速やかに再開し,積極的に支援することにしています。

また,学生の皆さんの中には,現下の状況にあって学業を続ける上で経済的困難が生じている人もいるかもしれません。それには,文部科学省,東京大学,そして理学系研究科・理学部でさまざまな支援があります。困難に直面したら,ぜひ近くの教員に相談してください。

コロナウイルス感染症の広がりは,私たちの日常を変えました。同時に,大学での学び,研究,運営の在り方のすべてが問い直されています。その中で,新たな気付きも少なくありません。今後に活かせるものもたくさんあるでしょう。ITの活用が進んたこと,それによって学び方,働き方に新しい方向性が見えてきたこともそのひとつです。私は決して後ろを見たくありません。単に「元に戻す」のではなく,この経験を大学の教育研究に埋め込み,一層のバージョンアップを目指す方向にもっていければと思います。理学系研究科・理学部がもっている「新しいことに挑戦する力」を,まさに活かすときではないでしょうか。

 

危機時における科学者の社会的役割 
横山 広美(国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構/学際情報学府 教授) 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の中で多くの科学者が活躍をしている。いっぽうで科学と政治の関係が整理されず混乱も見える。ここでは危機時の科学者の社会的役割を整理して伝えたい。

まず,危機時の政治,科学者,社会の関係,およびそれぞれのコミュニケーションの在り方は平時とは異なる。科学技術社会論分野では,危機時から平時に向かってコミュニケーションのモードをクライシスコミュニケーション,リスクコミュニケー ション,科学コミュニケーションと3段階に分類する。危機時は政治が主導でトップダウンに情報を提供し,国民に命を守る行動変容を促す。専門の科学者の役割は、問題のリスク評価を行い,政治に助言をすることであり,政治が国民に対して政治的責任を持つ。「安全」を研究するのは科学者の仕事であり、科学者は科学的責任を負う。いっぽうで,「安心」は心の状態であり,これに導くのは科学の仕事ではない。心配や警戒が必要な時もあるし,意図を疑われるので安易に安心へ誘導してはいけない。

危機時から,リスクコミュニケーションは始まっており,同時に科学コミュニケーションが行う役割もある。リスクコミュニケーションとは,リスクを一方的に説明することではなく,まして安心に導くことでもない。それは個々が納得できるリスクとの付き合い方を見つける手助けである。危機時の科学コミュニケーションはわかりやすい説明を提供することに役割がある。いずれの場合も恐怖のアピールを避け,受け手が行動できることを提示し,自分の行動が周囲のためになると思うことが重要である。

情報の透明性はどの段階でも重要である。しかし情報の透明性を担保すること(例えば議事録を公開すること)と自ら情報を発信することは異なる。情報の発信には意図があり,それに相応する責任がつきものである。例えば通常査読を経て発表している論文を,プレプリント段階で組織が大々的に発表をするのは適していない。

危機時に有用な専門は分野が限られている。しかし他の分野から有用な助言ができる場合もある。緊急時は専門家の声を一つにする「ワンボイス」が推奨される。しかしワンボイスが完全とは限らない。SNS時代,情報は大量に発出される。その中で,有用な情報を提供するのは,学会や団体などのグループであろう。個人の発表では,中身の専門知やコミュニケーションの仕方にも癖が出る。数名以上の議論を経た情報はバランスが取れ信頼度も増す。ワンボイスの原則にこだわりすぎて,有用な情報の提供が妨げられないように,ワンボイスを補う「グループボイス」の発信を提唱した。リスクコミュニケーションは外部から攻撃もあり個人での活動を推奨しないことからグループで動くことが重要である。

危機時の科学は進行中でありその時点で限界があるものが多い。専門家は限界も含めて,積極的に説明する義務がある。いっぽうで専門家が政治判断に踏み込んで発言することは「踏み越え」と呼ばれ批判される。専門家は万能ではない。ホセ・オルテガ・イ・ガセット(JoséOrtega y Gasset)は著書「大衆の反逆」の中で,専門しか知らないから専門家は間違えると,痛烈に専門家批判をしている。専門外へのコメントも同様に注意が必要である。自分が確たることを言えるのはどこからどこまでなのかの線引きが必要だ。

専門家は自分の専門の精度を上げることこそが本来の役割である。理学部長だった小平邦彦先生は学生紛争の専門家批判の中,「専門バカでないものはただのバカである」(「僕は算数しかなかった」)と述べて共感を得た。

専門家は専門家としての役割を誠実に果たすことに責任があり,全体は社会を通じて議論をし政治によって決定するということを覚えておきたい。

 

東京大学理学部:新型コロナウイルス感染症に関するサイト情報 
広報誌編集委員会 

新型コロナウイルス感染症に関する,東京大学理学部および東京大学でのウェブサイトをご紹介します。新型コロナウイルス感染症の拡大から,with-コロナへと向かって活動の再開を進めている今, ホーム ページからも最新の情報を収集し,今後の行動に活用ください。

新型コロナウイルス感染症に関するウェブサイト一覧
東京大学理学部 https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/6796/
   
専攻・学科ウェブサイト一覧  
数学科 https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/COVID-19.html
情報科学科 https://www.is.s.u-tokyo.ac.jp/index.php
物理学専攻 https://www.phys.s.u-tokyo.ac.jp/about/21883/
天文学専攻 http://www.astron.s.u-tokyo.ac.jp
地球惑星科学専攻 http://www.eps.s.u-tokyo.ac.jp/about-coronavirus/
化学専攻 https://www.chem.s.u-tokyo.ac.jp/news/jp/jp-announce/1780
生物科学専攻 http://www.bs.s.u-tokyo.ac.jp/covid19/
   
東京大学ウェブサイト  
新型コロナウイルス感染症に関連する対応について https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/general/COVID-19.html
東京大学 保健センター http://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19/

 

 

理学部ニュース2020年7月号掲載

 


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