恐竜時代の深海底下溶岩に腸内並みの微生物!

鈴木 庸平(地球惑星科学専攻 准教授)

 


プレートテクトニクスにより生み出される深海底熱水噴出孔は,生命誕生の有力候補地である。その仮説は,深海底熱水噴出孔の存在を示す枕状溶岩が,38億年前から地質記録として残っていることに裏付けられる。深海底熱水噴出孔から噴出するブラックスモーカー周りは,チューブワームやス鉄のうろこを持つスケーリーフレット巻貝と呼ばれる化学合成生物の楽園である。生命活動を支える火山活動は溶岩を噴出し,溶岩は海水で急冷されると平面ではなく枕状に広がる。溶岩は1000万年かけて冷え,プレートテクトニクスというベルトコンベアに運ばれて1億年程度で沈み込む。海洋底の大半を覆う冷え切った溶岩に生命が生息できるのかわかっておらず,その理由として,(1)水深が5000メートルを超える泥で厚く覆われた硬い岩石を掘削する困難さ,(2)掘削,船上処理,陸上分析等の全過程で生じうる微生物汚染を区別する困難さ,があげられる。

これらの困難を克服しても,その次に硬い岩石コア内部の微生物を調べる技術を開発する必要がある。そこで深海底熱水噴出孔の研究時代に培ったチューブワーム体内の細菌とスケーリーフットの鱗を分析する技術を組み合わせることを思い付いた。その組み合わせ技術を駆使して,DNA染色した1億400年前に形成した溶岩の薄片を蛍光顕微鏡観察して目にしたのは,亀裂に密集する緑に染まる微生物の姿であった(図左から中央)。結果が信じられないため,緑に染まる微生物細胞の元素組成を測定した結果(図右),C, N, P, S という生体主要元素が重なるスポットが,10μm×10μm×3μmの領域に10個以上見られた。スポットを微生物細胞として1cm3あたりに換算すると100億細胞超えの密度であると判明した。密集する微生物が有機物を食べる微生物だということもゲノム解析により明し,微生物細胞を包む粘土が有機物を濃縮していることも明らかとなった(図右)。

 
図:深海底から掘削された玄武岩コア(左)。その黒い亀裂部(矢印先部)から作成した薄片の光学顕微鏡(中央左)と蛍光顕微鏡(中央右)の写真。微生物密集部(矢印先部)の高倍率での蛍光顕微鏡写真(右)。オレンジが粘土、緑が微生物、黄色が粘土と微生物が混在する領域。黄色部(矢印先部) から作成した厚さ3μmの薄片55の元素マップ像(右上)。  

火星の表層を厚く覆う溶岩を構成する玄武岩は,地球の深海底下溶岩も構成し,今回明らかとなった微生物を包む粘土は,火星で玄武岩と水が反応してできる粘土と同じ種類であった。粘土の種類は形成した環境によって異なるため,同じ粘土である事実は玄武岩内部の環境が火星と地球で類似することを意味している。火星に生命が誕生しいれば地球の粘土と同様に生命の痕跡が見つかるはずである。火星生命をターゲットに,NASAの探査車が今年の夏に打ち上げ予定である。筆者は火星サンプルリターン計画において,帰還する火星試料中の生命の有無と地球生態系への影響を評価(惑星保護)するための国際組織の委員,国内ではJAXAの惑星保護審査部会の委員として,地球外生命探査の実現に向けた活動をしている。将来,学生が地球外生命の発見者になる日を夢見て,教育・研究活動に日々邁進している。

本研究成果は,Y. Suzuki et al. , Communications Biology 3, 136(2020)に掲載された。

(2020年4月2日プレスリリース)

理学部ニュース2020年7月号掲載

 

学部生に伝える研究最前線>

 

 

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