君の名は? ~ 神経細胞の名前を知る

豊島 有(生物科学専攻 助教)

飯野 雄一(生物科学専攻 教授)

 


線虫C. エレガンスは体長が約1mmと小さいため,活動している神経細胞が光るように細工すると,最新の蛍光顕微鏡によって,頭部のすべての神経細胞の活動を同時に観察できるようになってきた。顕微鏡画像に写ったそれぞれの細胞が302個のうちのどの神経細胞なのか名前がわかれば,観察された神経活動を回路にマッピングできるようになり,神経回路が情報を受け取って処理していく様子がわかる。しかし神経細胞は互いによく似ているので,多数の神経細胞を区別して正確に名前をつけることは難しかった。

神経細胞の配置は個体間である程度似ているが,位置のばらつきもあり,個々の細胞の位置情報だけで名前がつけられるかはわからなかった。 われわれは,GFPなどの蛍光タンパク質を特定のパターンで発現させた線虫株を35種類作成し,計311個体の頭部を詳しく観察した。蛍光タンパク質を発現した細胞を目印にして,頭部のほぼすべての神経細胞に名前をつけ,その位置を調べた。その結果,ひとつの細胞が存在する範囲は,隣の細胞の存在範囲と大きく重なっている場合が多く,こうしたばらつきのため,細胞の位置だけを頼りに名前をつけることは難しいことがわかった(図上)。線虫C. エレガンスは神経回路や細胞系譜が明らかにされており,個体差はあまりないと信じられてきたが,われわれが見つけた大きなばらつきは,個体差が少ないという従来の線虫のイメージを覆すものだった。

  図:上: 細胞配置のばらつき。楕円の広がりはひとつの細胞核の存在する範囲を示す。ばらつきが大きいため位置情報のみでの同定は困難だった。
下:4色に塗り分けられた線虫株の頭部の蛍光画像。色とりどりの粒は神経細胞の核。黒地の文字は細胞の名前。同一個体中の約160細胞に名前をつけられるようになった。

細胞の配置がばらついていても,蛍光タンパク質を発現した細胞を目印とすれば,その細胞や周囲の細胞の名前を知ることができる。目印細胞の数を増やしていくと,手がかりは増えるものの,蛍光タンパク質を発現した細胞ばかりになってしまい,目印細胞同士の区別が次第に難しくなる。 そこでわれわれは,発現パターンを複数組み合わせて細胞を塗り分けることにした。色の異なる蛍光タンパク質を2つ用いれば,組み合わせで4色に塗り分けることができる。35種類のパターンの組み合わせから最適な組み合わせを選び出し,神経細胞が4色に塗り分けられた線虫株を作成した。この線虫株では,ひとつの個体内で名前のつく細胞の数は約160個(従来比3.6倍)に増え, 線虫頭部のほとんどすべての神経細胞の名前を知ることができた(図下)。

次にこの株に,蛍光の強さにより神経活動を測 れる蛍光タンパク質(カメレオン)を導入することで,神経活動を観察し,それを神経回路にマッピングできるようになった。また細胞の位置や塗り分けられた色を頼りにして,神経細胞に自動的に名前をつけるソフトウェアも開発した。これらの成果を活用することで,脳・神経回路が情報を 処理するしくみを明らかにできると期待される。

本研究成果は Y. Toyoshima et al ., BMC Biology ,18, 30 (2020) に掲載された。

(2019年3月19日プレスリリース)

理学部ニュース2020年7月号掲載

 

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