「細胞の理論生物学」ダイナミクスの視点から

古澤 力(生物普遍性研究機構 教授)


金子邦彦・澤井哲・高木拓明・古澤力 著
「細胞の理論生物学」
 ダイナミクスの視点から
東京大学出版会2020年出版)

生命現象の記述には,細胞内の化学反応ネットワークや遺伝子発現応答,細胞の形態変化や運動,多細胞生物における細胞集団のパターンなどのさまざまな階層がある。近年の実験技術の発展は,そうした生命現象のダイナミクスに関する膨大なデータを供給しつつあるが,そこから情報を切り出し,生命現象の理解に到達するためには,数理的な解析が強力な武器となる。本書では,そうした生命現象のダイナミクスを扱う数理的な方法,特に力学系を背景とした数理モデルに焦点をあて,それによる生命現象の解析について解説をしている。

本書で扱う生命現象は多岐にわたる。例えば,1細胞レベルでの環境応答や適応,神経細胞の興奮性,細胞間相互作用によるパターン形成(チューリングパターン),生命の起源に関する諸問題などがあげられる。また数理的な手法としては,決定論的な力学系が持つ性質に加え,細胞状態のゆらぎを扱うための確率論的アプローチ,特にブラン運動理論と確率微分方程式について述べられ,さらに生命現象を扱うための情報理論について触れられている。

最新のトピックを含むが解説は平易であり,大学教養レベルの数学で十分に対応できるはずである。生命現象に興味のある方には,ぜひ手にとってもらい,数理的な解析がもたらす理解の様式を実感して欲しい。

理学部ニュース2020年7月号掲載

 

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