宇宙線の種をまく

天野 孝伸(地球惑星科学専攻 准教授)

 



地球で観測される宇宙線のエネルギー密度を説明するには,星が進化の最終段階で引き起こす超新星爆発のエネルギーの10%程度を宇宙線のエネルギーに変換することが出来ればよい。実際に超新星残骸から相対論的電子のシンクロトロン放射が観測されており,宇宙線の超新星爆発起源説はもっともらしい仮説である。超新星爆発が起こると爆風によって衝撃波が発生し,超音速で周囲に伝播する。衝撃波では超音速流の運動エネルギーが熱エネルギーに変換され,1億度を超える超高温のガスが形成する。一見すると非常に高いエネルギーのように思われるかもしれないが,宇宙線のエネルギーはこれを遥かに凌ぐ。流体力学的な衝撃波の性質では宇宙線は説明できないのである。

この衝撃波が伝播する媒質(星間物質)は極めて希薄で高温な電離したプラズマ状態のガスである。プラズマ中の衝撃波の興味深い特徴は,単に高温の熱的なガスを作るだけでなく,一部の非熱的な超高エネルギー粒子を生成することである。 標準理論のフェルミ加速は衝撃波を介した粒子加速のモデルであり,種粒子の存在を仮定すれば,宇宙線の生成が自然に説明できる。ところが,超新星残骸で観測されるような宇宙線電子の種に必要とされるエネルギーは,衝撃波で加熱されたガスの熱エネルギーよりも3桁は高い。そんなに高エネルギーの種粒子をどうやって作ればよいのだろうか?この難問は40年以上にも渡って多くの 研究者を悩ませてきた。

   
図:標準的な宇宙線加速のモデル(上)と,ミクロな衝撃波の構造を考慮した新たな種粒子の加速モデル(下)。

衝撃波面前後の比較的広い領域で起こる標準フェルミ加速とは対照的に,低エネルギー粒子の 加速には衝撃波のミクロな物理が重要となる。われわれは,最近の第一原理数値シミュレーションの結果にヒントを得て,電子がミクロな波動によって散乱され,衝撃波の内部に閉じ込められたまま加速されるというモデルを考えた(図)。この種粒子生成モデルを検証するには,ミクロな衝撃波の構造を分解することが必要であるが,天文観測では到底できそうにない。では,もっと地球に近い衝撃波ではどうだろうか?

太陽から吹き出す超音速の太陽風が地球にぶつかることで地球の前面(高度約10万km)には 定常的に衝撃波が形成されている。この衝撃波で宇宙線が生成されていないことはよく知られているが, 種粒子生成モデルの検証には十分使うことができる。この場合は人工衛星がその場に出向いてプラズマの直接観測を行うことができるため,天文観測に比べると遥かに多くの情報が得られる。さらに幸運なことに,最近になって観測精度が飛躍的に向上したため,理論の検証に耐えうる観測データが得られていた。結論から言えば,理論モデルは最新の観測データを非常によく説明することができた。直接観測で実証された我々のモデルは,超新星残骸のパラメータでは宇宙線電子の種粒子生成を十分に説明することができる。 我々は長年の大問題を解決するための大きな一歩を踏み出すことができたのかもしれない。

本研究成果は,T. Amano et al., Physical Review Letters 124, 065101(2020)に掲載された。

(2020年2月14日プレスリリース)

理学部ニュース2020年5月号掲載



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