フィールドワークの安全対策

茅根 創(地球惑星科学専攻 教授)


澤柿教伸・野中健一・椎野若菜 編
「フィールドワークの安全対策」
100万人のフィールドワーカーシリーズ9
古今書院(2020年出版)
ISBN 978-4-7722-7130-1

本書は,これからフィールドワークをはじめようとする学生や研究者に向けて発刊された100万人のフィールドワーカーシリーズ(全15巻)の第9巻である。3部構成(各部4章) で,第1部で,大学におけるフィールドワーク安全管理の組織的な取り組みについて紹介する。海外での感染症対策も, 取り上げられている。第2部が,雪氷圏,ヒマラヤなど厳し い自然環境において安全管理の指針通りに進まなかった際に,現場でどのように判断すべきかをリスク管理の視点から事例ごとにまとめ,第3部で,震災や中東・アフリカなどにおいて紛争に遭遇したフィールドワーカーが自らの命を守るためにどのように行動したかという極限の事例を解説する。

安全管理という観点から,大学−研究科−専攻−教員−学生
は,フィールドワークを安全に行うことを監督する責任があり,構成員はそれを守る義務がある。自己責任という考えは法的にも社会的にも通用しない。これは2005年に潜水調査中の研究員が死亡するという不幸な事故をきっかけとして,東大が策定したフィールドワークの安全規程と事故防止指針の基本方針であり,指針策定に関わり,本書の第1章を執筆した評者が強調した点である。

本書に基づいて行われたフィールドワーカーによる討論会では,社会規範の変容と管理責任は認めた上で,規程と指針を作れば事故が防げるわけではないという意見も多かった。またこうした規程が,事故の際の責任を下位へ転嫁する伏線となっていることを危惧する意見もあった。安全管理は前提とした上で,フィールドにおける事故を避ける上で,もっとも重要なものはフィールドワーカー自らのスキルと対応能力であることを,本書の事例から学ぶことができるだろう。

理学部ニュース2020年5月号掲載

 

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