研究科長・学部長あいさつ

私の理学部・理学系研究科長の最初の仕事は,2017年4月3日(月)の研究科付属小石川植物園の東大基金花見の会で,寄付者の皆様を前にした挨拶で始まりました。以来3年間,未熟な点や,至らぬ点が,多々あったであろうかとは思いますが,皆様からのご協力とご指導のおかげで,何とか無事役目を終えることができました。心よりお礼を申し上げます。

基礎研究を取り巻く環境が厳しくなる中,理学部・理学系研究科の活動全体を3年間眺めてきて最後に感じたことは,「次なる飛躍」の予感です。境界領域で新たな学問が続々と登場する中,生命の普遍的しくみを数理・物理学的視点で解明する生物普遍性機構,AIを物理する知の物理学研究センター,ヒトの知性の起源を探るニューロインテリジェンス機構(WPI;世界トップレベル研究拠点プログラム)など,理学系研究科が主導または関与する研究グループが先端領域に挑戦しています。

これらの研究活動を支えているのは理学系研究科の優秀な大学院生たちで,彼らをしっかりと支えることが「次なる飛躍」には不可欠です。日本では過去15年の間に博士課程へ進学する学生が40%も減少しているという驚くべき統計があります。また,博士号取得者数が減っているのは先進国の中で日本だけです(2014年統計値では,100万人当たり,日本118,英国353,ドイツ348,米国272,韓国279人で,日本だけが減少傾向)。理学系研究科では博士課程の定員(215名/学年) は毎年満たしていますが,予断は許しません。科学技術立国の日本の将来が危ぶまれます。2018年6月に,理学系研究科の全博士課程学生(616名)を対象に経済支援と海外派遣援助に関するアンケートを実施し,402名から回答,800件の自由記述意見が寄せられました。研究を通して社会に貢献していることを自覚するいっぽう,将来への不安と経済的支援の少なさを訴える声が多数を占めていました。私はこの結果などを元に学術会議を含むさまざまな場面で,欧米並みの経済支援の実現を訴えています。最近の報道では,総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)は今後博士課程学生への支援の増加を政府に求めることを表明しました。今後もこのような動きに注視していきたいと思います。

社会連携は「次なる飛躍」の重要なキーワードです。理学は社会との接点は少ないと思われがちですが,今では状況は一変しています。私は,物事の原理を探求する理学のマインドをもつ人こそ,本当の意味で革新的イノベーションを担えると信じています。真にアカデミアを追求する人,ベンチャー企業に挑戦する人,民間企業と共同で技術革新を担う人などさまざまな価値観をもつ人々が集い,それらが刺激し合って新たな価値が生まれる光景を近未来の理学部・理学系研究科として思い浮かべています。この実現に向けた動きが加速することを期待しています。

最後に,毎年年度末に開催される諮問会(外部評価会)からいただいている重視すべき3つのこと(答申)を皆さんと再度共有したいと思います。 それは,ダイバーシティ(価値観,ジェンダー,人種など)の実現,財源の多様化,卒業生ネットワークの充実,です。これらすべて,「次なる飛躍」 につながることと思います。今後は構成員の一人として,理学部・理学系研究科の教育・研究の発展に尽力していきたいと思っています。

理学部ニュース2020年3月号掲載

 

 

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