水族館で発見された新種のイソギンチャク!?

泉 貴人(生物科学専攻 博士課程3年生)

藤田 敏彦(国立博物館/生物科学専攻 併任教授)

 


1世紀以上採集された記録のない生物もいる。しかし,そのような種は,思いもよらない身近な場所で飼われているかもしれない。

沖縄美ら海水族館(沖縄県本部町)の水槽に,謎のイソギンチャクが2種類飼育されていた(図a, b)。口の縁が葉状に発達するなどひじょうに珍しい形態をしており,水族館も注目していたものの,どちらも「ヤツバカワリギンチャク科の1種」としか判断できていなかった。

われわれがこれらの謎のイソギンチャクについて,その外部形態の観察・切片を用いた内部形態の分析などの分類学的精査を行った結果,小さな個体(図a)はクローバーカワリギンチャク属Synactinernusの唯一の種であるクローバーカワリギンチャクSynactinernus flavusであると判明した。



  図: a, クローバーカワリギンチャクSynactinernus flavus . b, チュラウミカワリギンチャクS.churaumi. c, 深海のチュラウミカワリギンチャクの群れ。写真提供:a:藤井琢磨(鹿児島大学),b, c:沖縄美ら海水族館。スケールは5cm。
  (注)ジュニアシノニム(新参異名): ある種(属)が別の種(属)と同一であると判明した時,その名称は旧い方に統一される。この時,新しい方の名称は新参異名とよばれ,原則的に用いられなくなる。

実に101年もの間採集された記録がなかった本種が,水槽に10個体以上生きていたのだ!そして,大きな個体(図b)はクローバーカワリギンチャク属の特徴をもつものの,触手の数が100本以上多いこと,口の縁の葉状の構造が8枚均一に発達すること,体のサイズが3~4倍ほど大きいことなど,さまざまな形態でクローバーカワリギンチャクと区別されたため,これらの個体を新種記載すべきであると判断した。

近年,このクローバーカワリギンチャク属は,ヨツバカワリギンチャク属Isactinernusのジュニアシノニム(注)であることが主張されていた。しかし,本研究で採集された標本を用いてわれわれが分子系統解析を行った結果,両属は明確に離れた系統に位置したため,クローバーカワリギンチャク属は有効であるということが証明された。これらの結果をもとに,われわれはクローバーカワリギンチャクS.flavusを再記載するとともに,大型の個体の方は新種として記載し,飼育していた水族館の名に因んでチュラウミカワリギンチャクSynactinernus churaumiと命名した。

チュラウミカワリギンチャクは,石垣島の沖で偶然採集されて以来15年もの飼育を経て新種記載されたが,近年行われた沖縄美ら海水族館による無人潜水艇を用いた調査にて,沖縄島沖の水深約300mの深海底にも群れて生息していることが判明した(図c)。深海での生態が観察されたのは,ヤツバカワリギンチャク科を通じて初めての快挙である。このように,生物を入手する機会に恵まれる水族館と,専門的な知識をもつ研究者がタッグを組むことは有益であり,近年,多くの動物群 で両者がコラボレートした研究が実際に行われつつある。たとえば,われわれが先に新種として記載したテンプライソギンチャク(理学部ニュース50巻2号参照)においても,その後行われた鳥羽水族館との共同研究の結果,海綿との共生に関して新たな生態が明らかとなっている。チュラウミカワリギンチャクに関しても,今後の水族館との共同研究により,さらなる新事実が明らかとなることが期待される。

本研究成果は,Izumi. T et al ., Zoological Science 36 (6), 528(2019)に掲載された。

(2019年12月10日プレスリリース)

理学部ニュース2020年3月号掲載



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