医薬品の原料になるキラルアミンを連続生産

安川 知宏(GSC社会連携講座 特任助教)

小林 修(化学専攻 教授)

 


不斉点をもつアミン(キラルアミン)類は医薬品の構造中によく現れ,小分子医薬の約40%に含まれる重要な化合物群である。ごみを出さない理想的な合成法として,C=N二重結合をもつ化合物を水素により不斉還元する方法が挙げられる。キラルな触媒を用いた不斉水素化反応は,2001年のノーベル賞受賞対象となったトピックでもあり,実験室レベルではこれまで盛んに研究されてきた。しかし,これらのほとんどは芳香環が直接C=N結合に接続した基質への適用に限られ,有用な物質の多い脂肪族基質に対する反応は選択性が十分でなかった。また,高圧の水素(5-50気圧)を必要とするなど,安全性への課題も懸念される。加えて,高価な貴金属の錯体触媒を液相に溶かして使用しており,その回収・再使用は難しかった。このように,キラルアミン類触媒的不斉合成の実用化には多くのハードルがあった。

これらを克服する鍵となるのは「固相担持触媒」と「フロー法による連続生産」である。われわれは,不斉水素化に有効であることが知られているイリジウム錯体とキラルリン酸からなる触媒系に着目し,前者の不均一化を行った。錯体の配位子のアミン部位を基点にスチレン部位を導入し,架橋剤とともに重合させることで,不溶性の固相担持錯体を調製した。とくに,重合を行う部位と触媒活性をもつ部位との間に適切な距離を取ったところ(スペーサー部位の導入),高い活性と選択性がバッチ法にて確認された。

  図:連続フロー法によるキラルアミン合成の概略。

次にフロー法による実験を試みた。フロー法でキラルアミン合成の概略は,固体触媒を充填したカラムに原料を溶かした溶液を流通させることで,触媒との分離および目的物の生成が同時かつ連続的に行われる手法である。高い安全性や省スペースにもつながる他,必要な分だけ運転することが可能である。本反応系では,固相担持イリジウム錯体触媒を詰めたカラムに対し,キラルリン酸触媒や水素ガスも同時に流通させた。従来のバッチ法よりも低い水素圧 (バッチ法の20気圧に対し,3-6気圧)で反応を行うことができ,目的物であるキラルアミンが高収率・高エナンチオ選択性をもって得られた。固相・液相・気相の混合効率がフロー系の方が良い為と考えられる。さらに,後続に塩基樹脂を充填したカラムを連結することで,キラルリン酸触媒を捕捉し,回収・再使用ができることを示した。 本フロー法は医薬品前駆体の合成にも適用でき,実際に排尿障害の治療薬として用いられている 「ハルナール」の医薬原体であるタムスロシンの鍵中間体であるキラルアミンの連続合成を30時間以上に渡って達成した。これらの成果は高効率的なファインケミカルズの連続合成法に新たな手法を提供できたといえる。

本研究成果は,T. Yasukawa, R. Masuda, S. Kobayashi, Nature Catalysis 2, 1088(2019) に掲載された。

(2019年11月11日プレスリリース)

理学部ニュース2020年3月号掲載

 

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