私は,わが国はいずれ財政破綻し,敗戦後と同じような混乱とインフレーションを迎えるものと予測し,公私ともにその備えをぼちぼち始めているところですが,ここでお話ししたいのはそんなことではなく,初期宇宙のインフレーション的宇宙膨張がいつ起こったのか,という問題です。

私たちが現在暮らしている宇宙は,観測可能な差し渡し970億光年にわたって大域的に一様で,曲率半径がきわめて大きい実質的に平坦な空間です。このような一様・平坦という観測事実は,宇宙が熱い小さな状態から始まり,万有引力のもとで減速膨脹しながら現在に至った,というビッグバン宇宙論のもとでは理解できない奇妙な性質です。

とくに,宇宙がイオン化したプラズマ状態から,電気的に中性な水素原子で満たされるようになった,宇宙の晴れ上がり(宇宙開闢後38万年)の時の状態を直接伝える生きた化石である宇宙マイクロ波背景放射は,当時の地平線(各時刻までに直接交信できた距離の上限)をはるかに超えた現在の地平線上でも4桁もの精度で等方的であることが観測されています。これはビッグバン宇宙論のもとでは,因果律に矛盾したことが起こったことを示すものであり,この理論の大きな困難であるといえます。

これを解決するのが,初期宇宙に急激な加速膨張期を与え,地平線を急拡大してしまおうというインフレーション宇宙論です。インフレーション的急膨張が起これば,それまであった凸凹も引き伸ばされてしまうので,宇宙が平らな空間になることも合わせて説明できます。インフレーションは,それ以前に存在した凸凹だけでなく,ミクロなスケールに生成し続ける量子論的なゆらぎまで引き伸ばすので,宇宙全体を一様等方化すると共に,各スケールにほぼ同じ大きさの微小なゆらぎを仕込む役割を果たします。これが宇宙マイクロ波背景放射の5桁目に観測されている温度ゆらぎの起源や銀河・銀河団などの宇宙の大規模構造の起源を与えてくれます。

図 : (上)LiteBIRD衛星の概念図(JAXA宇宙科学研究所提供)(下) LiteBIRDにおけるB モード測定感度予想 (LiteBIRD チーム提供)。

 

インフレーションの起こった時刻を知るには,そのときの宇宙のエネルギー密度を測定すればよいのですが,それにはインフレーション中に生成する長波長の量子的重力波を検出することが必要です。このような長波長原始重力波は,宇宙マイクロ波背景放射のBモード偏光にその痕跡を残すので,それを測定すれば知ることができます。偏光のパターンには電場と磁場のように湧き出し型と回転型があり,それぞれEモード,Bモードとよばれますが,重力波の情報を直接伝えてくれるのがBモードなのです。物理学専攻の日下研究室ではその測定を目指した地上観測を行っています。さらに,これを測定する人工衛星LiteBIRDが2027年に打ち上げられることが決まり,10年以内には結果が得られます。それ次第では,私たちがもっとも一般的な単一場インフレーション理論の枠組みであるGインフレーション理論を提唱した際に発見した,インフレーション中に宇宙膨張率が徐々に大きくなるようなモデルが検証できるかもしれません。

さらに,この量子的重力波を直接検出する実験はDECIGO計画として安東研究室を中心にその基礎研究が進められています。これが成功した暁には,インフレーションのあとビッグバンがいつ起こったかも知ることができる可能性があること を私たちは示しています。

理学部ニュース2020年1月号掲載



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