レーザー干渉計で重力波と暗黒物質の二毛作

道村 唯太(物理学専攻 助教)

長野 晃士(物理学専攻 博士課程博士課程3年生)

 


暗黒物質とは,質量をもち重力の源となるが,重力以外の相互作用をほとんどせず,光を出さない物質である。その存在は,銀河の回転速度の観測や重力レンズの観測などから強く示唆されてきた。近年では宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎの観測から,宇宙の全エネルギーのうち通常の物質(バリオン),暗黒物質,ダークエネルギーが占める割合が測定されており,それぞれ約5%,27%,68%と報告されている。この観測結果は宇宙の標準モデルと驚くべき精度で一致しており,現在は精密宇宙論の時代とも言われている。

いっぽうで,暗黒物質の正体は全くわかっていない。とくにWIMP( Weakly Interacting Massive Particles) とよばれるわずかな相互作用をする重い粒子や原始ブラックホールなどは暗黒物質の有力な候補と考えられており,大規模な観測や実験で精力的に探査が行われてきたが,いまだ検出に至っていない。そこで近年,改めて高い注目を集めているのがアクシオンとよばれる軽い粒子である。アクシオンは元々は量子色力学における強いCP問題を解決するために提案された仮説上の粒子であるが,ひも理論のような高次元理論もさまざまなアクシオンに似た粒子を予言する。

アクシオンには,光とわずかに相互作用して直線偏光をもつ光の偏光面を周期的に回転させるという性質がある。われわれはこの性質に着目し,レーザー干渉計を用いて偏光測定をすることで,アクシオン暗黒物質を探査する新手法を提案した。われわれの手法では,2枚の正対する合わせ鏡で構成したファブリ・ペロー干渉計を用いる(図上)。ファブリ・ペロー干渉計では,干渉計内をレーザー光が何回も往復するが,往復にかかる時間と偏光面の回転周期が一致すると,偏光面回転の大きさを増幅することができ, 高い精度での探査をすることが可能となる。



図: ファブリ・ペロー干渉計で増幅された偏光面回転を検出することでアクシオン探査を行う手法を提案した(上)。重力波望遠鏡に本手法を適用すると,太陽観測や超新星爆発観測などを超える高い精度でアクシオン探査が可能となる (下)。縦軸はアクシオンと光の相互作用の大きさであり,より小さな結合定数を探査することができるほど,より高精度な探査となる。

この手法には従来のアクシオン探査に用いられてきた強磁場発生装置が必要ないため,さまざまなレーザー干渉計に適用可能である。たとえば,アメリカにあるAdvanced LIGOや日本にあるKAGRAのような重力波望遠鏡は,それぞれ片腕の長さが4km,3kmの大型のレーザー干渉計であり,われわれの手法を適用するとこれまでの探査精度にくらべて約10倍高い精度でアクシオン暗黒物質を探査することが可能となる(図下)。また, Cosmic コズミック Explorer エクスプローラー DECIGO デサイゴ (DECi-hertz Interferometer Gravitational wave Observatory) のような将来の重力波望遠鏡計画では1000倍以上の精度向上が期待されることを示した。

われわれの手法は,光検出部に偏光測定用の装 置をつけるだけで適用可能である。重力波は光の 位相を,アクシオンは光の偏光面を回転させるため,それぞれを分離して検出することで重力波 の観測と同時にアクシオン探査をすることができる。重力波望遠鏡から,暗黒物質の初検出が報告される日が来るかもしれない。

本研究成果は, K.Nagano et al ., Physical Review Letters 123, 111301(2019) に掲載された。

(2019年9月11日プレスリリース)

理学部ニュース2020年1月号掲載

 

学部生に伝える研究最前線>

 

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加