地震の始まり方と大きさからわかること

井出 哲(地球惑星科学専攻 教授)

 


この問題は地震の予測可能性にとって重要な問題であり,多くの研究者によって何十年も議論されてきた。2019年9月にNature誌に掲載された論文(Ide,2019)は,この問題に対しひとつの明快な解答を与えた。少なくとも通常の地震波の分析では,地震の始まり方から最終サイズはわからない。なぜなら最初の約0.1秒の地震波が同じなのに,中規模で終わる地震も大地震になる場合もあることが分かったからである。具体的には,過去15年に東北沖で発生した約2千回の比較的大きな地震の中に,より小さな地震と同じような最初の地震波をもつペアが多数発見された。わからない,というのは一見残念な結果である。しかし,始まり方が同じという事実は地震の発生メカニズムについて,もうひとつの重要な示唆を与える。

今回発見されたペアには,2011年の東日本大震災時のようにプレート境界で発生する地震が多く含まれる。プレート境界で発生する地震の中には,ほぼ同じところで何か月または何年かに一度,同じようにくりかえす地震があることが,以前から知られていた。プレート境界というのは2つのプレートがすれ違う境界面だが,もちろん数学的な平面ではない。長い年月をかけてできあがった凸凹や亀裂が多数存在する複雑な構造境界である。複雑な境界の中にも比較的単純な部分があり,その部分は壊れるときには一度に壊れ,そこを境に2つのプレートがずれる。いつも同じ場所が壊れるなら同じ大きさの地震が起こる。地震の始まり方どころか,すべて同じである。そして実際にこのようなくりかえし地震は高い確率で予測可能である。

今回の発見はこの観察をより一般化する。プレート境界の複雑な構造には,さまざまな大きさのものがあり,多くは入れ子状になっている(図)。すると最初に小さな構造が壊れた後で,さらに連鎖反応的に大規模な構造が破壊することもありえる。それが今回観察されたペアのうち大きいほうの地震に相当する。この連鎖反応はいつも起きるとは限らないので,小さい地震で終わることも多い。連鎖反応がめったに起こらないなら,いつも同じ予測しやすいくりかえし地震である。今回の成果は,観測の蓄積によって,プレート境界の構造で支配された地震の起こり方を絞り込めることを示唆する。まだまだ正確な確率予測のためのハードルは高い。しかし地震は全く予測不能な現象ではない。正しい理解によって予測能力を向上させることが地震研究の重要な目標である。

  図:今回の観察事実が示唆する地震発生プロセスのイメージ。

本研究成果は,S. Ide, Nature 573, 112(2019)に 掲載された。

(2019年9月5日プレスリリース)

理学部ニュース2020年1月号掲載

 

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