見えない銀河がどうしたって?

河野 孝太郎(天文学教育研究センター 教授)

 


遠方にある銀河を観測すると,銀河における紫外線連続光のうち,波長約0. 12 μ m よりも波長の短い紫外線は,水素ガスに吸収され見えなくなる(ブレーク)。 宇宙は膨張しているので,このブレークが現れる波長は,赤方偏移zの銀河では 1+z 倍長くなる。たとえば z=3 の銀河では約0. 49 μ mの可視光にブレークが現れるため,Uバンド(約0. 3 μ m)では見えていないが,それより長い波長では見えている天体(Uドロップアウト)を探すと,それは赤方偏移が3付近の銀河候補ということになる。この調子で,波長がさらに長いバンドでドロップしている,すなわち見えなくなる天体を探していくと,より遠方の銀河が見つかるという算段である。近年の観測では,近赤外線のJバンド(波長1. 25 μm)で見えなくなる銀河(Jドロップアウト)が報告されている(その赤方偏移は計算してみてほしい)。

今回アルマ望遠鏡で見えた銀河は,その上をいくHバンド(1. 6 μ m)でのドロップアウトである(図1)。 ライマン・ブレーク法の考え方を単純に適用すると,赤方偏移は13を超える。しかし,詳しい解析の結果,私たちが発見した銀河の赤方偏移は約3から6の範囲にありそうだ。なぜ,赤方偏移が3から6の銀河なのに,Hバンドでドロップしているのか?その答えを出したのはアルマによる観測であった。870 μ m というサブ ミリ波で明るく輝いているという観測事実から,これらの銀河が,多量のダスト(1 μ m よりも小さい微粒子)に覆われており,その中で爆発的な星生成を行なっているということが推測できる。多量のダストの存在により,若い大質量星からの紫外線が吸収され,出てくることができないのであろう。そのかわり,紫外線を吸収したダストが約40Kに「温め」られ,その熱放射がサブミリ波として検出されたというわけだ。

図1 図2
図1:今回発見された,「見えない銀河」の例。ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された,可視光(zバンド,約0. 85 μm)と近赤外線(Jバンド1. 25 μ m およびHバンド1. 6 μ m)の3波長の画像を,順に青緑赤で3色合成した疑似カラー画像を示している。この可視光から近赤外線にかけての画像では何も「見えていない」場所(1から4の番号が付されている小さい白い四角の領域)をアルマ望遠鏡で観測すると,サブミリ波(波長 870 μ m)で明るく輝く銀河が「見えて」いる(1から4と番号が示してある4つのパネル)。
図2:星形成率密度を,赤方偏移(つまり宇宙の時間軸)の関数として表した図。今回アルマで観測された銀河()は,ライマン・ブレーク法で見えている同程度の質量の銀河()や理論的な予測()と比較して顕著に多い。

赤方偏移の記録更新ではなかったものの,今回の成果はたいへんに興味深い。私たちが遠方銀河を探索する際に広く用いるライマン・ブレーク法では,実は見落としている銀河が結構あるかもしれない,ということを意味しているからである。詳しい解析の結果,今回発見した「アルマで明るく見えるHドロップアウト」 は,質量の大きな銀河(現在の楕円銀河の「ご先祖さ ま」にあたるような銀河)の形成初期段階に相当するらしい。同程度の大質量で活発に星生成をしている銀河は,ライマン・ブレーク法でも見つかっているが,「アルマで明るく見えるHドロップアウト」は,ずっと数が多いようである。困ったことに,銀河形成理論の研究者に聞いてみると,現在の銀河形成・進化シミュレーションで, Hバンドで見えなくなるような大質量の星生成銀河を,この時代に,これほど多数「つくる」 のは至難らしい(図2)。理論計算の中で,ダストの取り扱いに問題があるのか,はたまた,銀河を育むゆりかごである暗黒物質の塊(ダークハロー)についての理解で何か見落としがあるのか。Hバンドで見えないけれどサブミリ波で見えたこれらの銀河は,また新たな謎を私たちに突きつけている。

本研究成果は, T. Wang, et al .,Nature ,572, 211(2019) に掲載された。

(2018年8月8日プレスリリース)

理学部ニュース2019年11月号掲載

 

 

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