フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト
「日本動物誌」

Fauna Japonica

茅根 創(地球惑星科学専攻 教授)

Philipp Franz Balthasar von Siebold
Fauna Japonica
(1833-50年編纂・刊行)

江戸時代末期の1823-29年,日本に滞在したシーボルト(Philipp Franz Balthasar von Siebold:1796-1866)は,多数の動植物標本と資料を収集し,動物についてはライデン王立自然史博物館(現:ナチュラリス生物多様性センター( Naturalis Biodiversity Center))のウィレム・デ・ハーン(Wilhem de Haan)らとともに「日本動物誌」(1833-1850)を編纂・刊行した。甲殻類,魚類,爬虫類,鳥類,ほ乳類の5巻からなり, 日本の多様な動物相をリンネの命名法にしたがって分類し,世界に紹介した。多数の新種や新属,ニホンオオカミなど現在は絶滅した動物の記載も含み,それぞれの分類群の研究において,現在もタイプ標本として引用される。わが国で完本を所蔵する図書館は10ほどである。

 
 

本著の価値のひとつは,学術的に精確で,芸術的に美しいその図版である。ほ乳類以外は,おもに長崎の絵師,川原慶賀の筆になるもので,外形の特徴を,毛の1本,鱗の1枚まで精細に表現するだけでなく,移動や生殖に用いる器官の構造や,行動と生態まで活写している。写真による現在の図鑑に慣れた者には,分類の鍵がすべて描きこまれた図版に感動を覚えずにはいられない。いまにも抜け出して動き出すような躍動感は,分類を行わない者をも魅了する。

分子系統学的手法によって,従来の生物分類は変革を迫られている。しかし遺伝子にばかり目を奪われ,木を見て森を見ずになってはいないだろうか。形態の違いに着目して,分類し名前をつけるという,本来の科学者の動機に寄り添った情熱に接することは,すべての研究者にとって初心に返る一助となるだろう 。

写真右上: 表題紙の背景には十二支などが描かれている
写真左左: 多種多様な動物たち。 上から4番目のアオバトはシーボルトにちなんで学名を付けられた
 
本稿の作成にあたり,総合研究博物館研究事業協力者井手陽一氏
(海洋プランニング㈱)にコメントをいただいた。




 
 

理学部ニュース2019年11月号掲載



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