アイザック・ニュートン
「光学」(1719年,ラテン語版第2版)

OPTICE

島野 亮(低温センター/物理学専攻兼担 教授)


Sir Isaac Newton(著)
OPTICE
sive de reflexionibus,
refraflionibus,inflexionibus &
coloribus lucis, libri tres.
(1719年ラテン語版第2版)

「光学」は,光の反射,屈折,回折,光の色といった光の諸性質についての,アイザック・ニュートン(Isaac Newton:1642-1727)自身によってなされた膨大な実験に基づく研究の集大成である。初版は英語版で1704年に出版され,その第2版ラテン語版が理学図書館に所蔵されている。ニュートンは,微積分法によって近代数学の基礎を築き,「プリンキピア」により古典力学体系を完成させた偉大な数理物理学者であるが,「光学」によって光の科学にも革命をもたらした。本書ではニュートンは,実験と観測事実に基づいて帰納的に結論を導くことに徹していて,ニュートンの卓越した実験科学者としての側面を伺い知ることができる。本文では数式はほとんど用いられず,さまざまな実験が詳細に記述されており,読み物としてたいへん面白い。

表題紙裏に東京帝国大学時代の蔵書印が押されている

たとえば太陽からの白色光がさまざまな色の光の混合であることが,複数のプリズムを用いた巧みな実験により見事に示される。重厚な装丁の原典巻末にまとめられている図版はひじょうに美しく,300年前の実験風景が鮮やかに浮かび上がる。第1,2篇では実証科学に徹し,仮説の提唱を避けたニュートンであるが,最終篇(第3篇)では観測が中途に終わり結論に至らなかった問題として,31個の「疑問」(仮説)を挙げている。たとえば,「光は物質に作用して,その粒子に熱の本質である振動運動をさせるのではないか」,「物質と光は互いに転換できるのではないか」など,光と物質の相互作用に関する洞察が展開され,ニュートンの科学的思考,自然科学に謙虚に向き合う姿勢に触れることができる。さて現代に生きるわれわれはこの31個の疑問にどこまで答えられるだろうか。(和訳「光学」(岩波文庫,島尾永康翻訳)を参考にした。)

プリズムを使った分光実験の図


理学部ニュース2019年7月号掲載



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