花咲かじいさんの灰

阿部 光知(総合文化研究科 准教授/生物科学専攻 兼担)

 


植物は,昼の長さ(日長)の季節変化に応じて花を咲かせるタイミングを決めている。こうした植物の環境応答を上手く利用した好例のひとつひとつ一つに,キクの電照栽培があげられる。フロリゲンは,植物が日長依存的に花を咲かせる現象において不可欠な植物ホルモンである。花を咲かせる日長条件で育てられた植物では,葉においてフロリゲンが作られる。フロリゲンは葉から茎の先端にある分裂組織(茎頂分裂組織)へと維管束を通って運ばれ,花を咲かせる(図)。

フロリゲンの存在は1930年代から予見されていたが,シロイヌナズナの研究によってFLOWERING LOCUST (FT) がその分子実体であることが明らかにされたのは2005年のことである。私たちは,これまでにFTがフロリゲンの実体であり,茎頂分裂組織でFD(細胞核内でFTを受け取る転写制御因子)とタンパク質複合体を形成し、花芽形成遺伝子の転写をオンにすることによって花を咲かせることを明らかにしてきた。しかしながら,花芽原基領域の細胞で実際にFTとFDが複合体を形成しているのかは,依然として不明のままであった。今回,私たちはFTとFDが複合体を形成すると蛍光を発する植物を作出し,花芽原基領域においてFT-FD複合体が形成されることを新たに見出した(図)。また,FT-FD複合体は短期間しか作られないことが判明したことから,この複合体が花を咲かせる一過的なスイッチとしてはたらいていることが明らかになった。

図:フロリゲンが花を咲かせるしくみ(上)
と茎頂分裂組織で観察されるFT-FD複合体を形成する細胞(青く光っている細胞)(下)。
 

FT が作れないシロイヌナズナは極端な遅咲きになる。逆に,FTをたくさん作らせれば花を早く咲かせることが可能である。つまり,植物体内のFTの量を人為的にコントロールすることによって,花を咲かせるタイミングを自由自在に操ることができるのだ。現在では,シロイヌナズナ以外の多くの植物種においてFT遺伝子とよく似た遺伝子がフロリゲン遺伝子としてはたらいていることが知られている。すなわち,FTは,シロイヌナズナに限らずあらゆる植物の花を咲かせることが可能な「万能花咲かホルモン」なのである。まるで「花咲かじいさんの灰」そのものではないか。

本研究で明らかになったFT-FD複合体による花成制御の仕組みは,植物全般に共通の普遍的なしくみである。したがって,FT-FD複合体の機能理解が深化することによって,農産業に多大な波及効果をもたらすことが期待される。

本研究成果は,M. Abe et al., Development,146,dev171504(2019)に掲載された。

(2017年4月3日プレスリリース)



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