「歯の生えかわり」から読み解く,恐竜の秘密

花井 智也(地球惑星科学専攻 博士課程3年生)

對比地 孝亘(地球惑星科学専攻 准教授)注1

 

 



2006年,日本とモンゴルの共同発掘隊は,ゴビ砂漠西部にてタルボサウルス(Tarbosaurus bataar)という恐竜の化石を発見した。その化石は珍しい幼体のものであり,しかも頭骨を含むほぼ全身の骨格がそろっていた。タルボサウルスは有名なティラノサウルス(Tyrannosaurus rex)に代表されるティラノサウルス類(Tyrannosauridae)の一員である。 幼体と成体の特徴を比較すればこのグループの恐竜の成長について新たな知見が得られる。2011年に国際誌上で報告されると注2,この幼体化石は世界中の恐竜研究者たちの注目を集めた。

ティラノサウルス類は中生代白亜紀後期(約1億~6600万年前)に大繁栄した肉食性のグループである。このグループをめぐって今日まで盛んに議論されてきたトピックのひとつが,「どのように物を食べていたのか?」という問題だ。たとえば歯や骨の解析から,上顎の前歯(前上顎骨歯)と他の歯を使い分けていたことや,幼体と成体では獲物が異なっていた可能性が指摘されている。

  図:タルボサウルスの幼体の歯列。未熟な歯(交換歯)を黄色と赤色,成熟した歯(機能歯)を青色で示した。
A: 頭骨を半透明化し,左上顎の歯列を可視化したデジタル3D構築(左側面観)。
B: 左上顎の歯列の内側面観。
C: 幼体と成体での下顎の歯列の比較。成体では奥歯から先に交換が始まる。

注1.現:国立科学博物館
研究主幹
注2.Tsuihiji et al ., J..Vert.Paleontol 31(3),497(2011)


物を噛むたびに歯はすり減ったり欠けたりするため,歯の交換様式には重要な機能的意味がある。 ティラノサウルス類では歯の交換が規則的に起きていたことは1960年代までに明らかにされていたが,その詳細についてはあまり研究されてこなかった。しかし,新たに発見された標本と進歩した解析技術を利用すれば,その規則性についてより多くの知見が得られると私たちは予想した。

恐竜を含む主竜類という分類群では,交換を待つ未熟な歯は歯槽(骨で囲まれた歯が収まる穴)に埋まっているため,化石から歯の交換の規則性を読み解くには,顎の骨の内部に隠された歯を観察する必要がある。そのためには歯列がきちんと保存されている標本を用いなくてはいけない。そこで私たちはタルボサウルス幼体化石の頭骨に注目し,X線CTスキャンと三次元可視化ソフトウェアにより未熟な歯を含めた歯列の3Dデジタル復元を行った。

その結果,この幼体の下顎の歯列では,前から数えて奇数番目の歯槽と偶数番目の歯槽で交互に交換がおきていたことが判明した。ティラノサウルス類の成体ではこのような特徴に加えて,先に奥歯から抜けはじめることがすでに知られていたが,幼体の下顎歯列にはそのような特徴は無く,単純な交互交換をしていたようである。このことから,歯の交換パターンはティラノサウルス類の成長とともに変化したことが示唆された。いっぽう,上顎の歯列では,前歯(前上顎骨歯)と他の歯(上顎骨歯)の間で交互交換の規則性が乱れていた。これは前歯の交換が他の歯列とは独立的に制御されていたことを示唆している。このような制御様式が,ティラノサウルス類では前歯と他の歯の使い分けにつながったと考えられる。

このように歯の交換パターンの研究が,ティラノサウルス類における成長に伴う食性の変化や歯列の機能について考えるための,貴重なヒントをもたらす結果となった。

本研究はHanai & Tsuihiji, The Anatomical Record (2018)に掲載された。

(2018年10月31日/ 2019年2月15 日UTokyo FOCUS)

理学部ニュース2019年5月号掲載

 

 

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