小惑星サンプルリターン探査機「はやぶさ2」は2014年12月に打ち上げられ,3年半の航海の末,2018年6月に小惑星リュウグウに到達した。初めて目にするリュウグウは二つの独楽 (コマ)を貼り合わせたような形状をし,表面は多くの岩塊に覆われていた。試料採取装置の開発に理学の立場から関わってきた私は,到着を喜び,初めて見るリュウグウの姿を楽しみながらも,これは困ったことになるかもしれないと思った。岩塊が多いと探査機は安全に着陸して,試料採取をおこなえないからだ。

なぜ小惑星リュウグウの試料を採取して,地球に持ち帰りたいのか。太陽系でどのように惑星がつくられ,地球が誕生したのかを理解するために,惑星形成現場の目撃者である隕石の分析がこれまでおこなわれてきた。隕石の分析から,私たちは太陽系の年齢を知り,太陽系の最初期にどのような物質進化が起きたのかを垣間見ている。それらの中には,含水鉱物(構造の中に水を含む鉱物) や有機物が含まれ,地球の海や生命の材料を地球にもたらしたかもしれないと考えられる隕石(炭素質コンドライトとよばれる)もある。炭素質コ ンドライトが地球外からやってきたことは紛れもない事実であるが,それらが一体,太陽系のどの天体から来たのか,分かっていない。私たちは地球に水や有機物をもたらした天体がなにかをまだ知らないのである。

   
図:着陸直後,上昇を始めた際に 撮影されたリュウグウ表面。図中央上部分に見えるのが,試料採取のためのサンプラーホーン。ホーンの中で弾丸が発射され,舞い上がった粒子が試料格納庫に収納される。粒子(探査機の影に入って黒く見える)が飛び出す様子が確認できる。

(c) JAXA

小惑星の中には地上からの反射スペクトルの観測で炭素質コンドライトとの類似性が指摘されている天体があり,C型小惑星と分類される。C型小惑星は火星と木星の間にある小惑星帯の外側に一般的に存在する小惑星である。「はやぶさ2」が訪れたリュウグウは地球に近い軌道をもつC型小惑星で,かつては小惑星帯にあったものが軌道を変化させ,現在の軌道をもつようになったと考えられる。リュウグウから試料を持ち帰り,分析することで,C型小惑星がそもそも何者なのか,水や有機物をどのように含むのか,炭素質コンドライトの故郷なのかという問いへの答えが得られるだろう。さらには太陽系の最初期の物質進化や,リュウグウでの物質進化についても情報が得られるだろう。天から降ってくる石を待つのではなく,太陽系の起源や地球の海や生命の材料の情報を残す最上のサンプルを能動的に採るために「はやぶさ2」は旅立った。海の起源に迫ることができる天体として,探査対象小惑星はリュウグウと名付けられた。

そんな期待をもって,訪れたリュウグウは岩塊に覆われていた。当初予定していた10月の着陸を延期して,着陸可能な地域を精査し,最終的に降りることになったのは,半径3mの円の中であった(太陽電池パドルを広げた「はやぶさ2」 のは約6mのサイズである)。2019年2月22日,「はやぶさ2」はピンポイントでこの円の中に降り立ち,試料採取のための弾丸を発射した。弾丸の発射も確認され,サンプル採取は無事におこなわれたと思われる。4月5日には人工クレーターをつくる実験もおこなわれ,可能であれば,異なる場所にもう一度着陸し,新たな試料の採取に挑む予定である。

試料が入ったカプセルが地球に届けられるの は,2020年の暮れである。ここまで観測から,リュウグウはとても暗い天体で,当初の予想より水が少ないことが分かっている。それがはたして何を意味するのか,帰還試料が語ってくれるはずである。

理学部ニュース2019年5月号掲載




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