フェナインナノチューブ

磯部 寛之(化学専攻 教授)

池本 晃喜化学専攻 助教

 



sp2炭素から筒状分子を化学合成することはそれほど容易なことではない。たとえば,40個のsp2炭素を筒状に連ねた分子は1983年に案出されているが,いまだその合成は成し遂げられていない。ところが,sp2炭素6個からできているベンゼンを基本単位とすれば,巨大な筒状分子の設計・合成が容易になる。芳香族カップリング反応とよばれるベンゼン環とベンゼン環を連結する化学反応が活用できるためである。私たちは,この単純ながらこれまでに着想されてこなかった戦略により,40枚のベンゼン環を筒状に連ねたpNT分子を合成した。その結果,化学組成C304H264,分子量3917,240個のsp2炭素を連ねた巨大筒状分子が登場した。

化学反応をいかに組み合わせて,狙った分子を合成するか。これが有機合成の醍醐味である。pNT分子の化学合成は,Pd,Ni,Ptを活用した3種の芳香族カップリング反応を組み合わせることで実現した。40枚のベンゼン環を繋いだ化学結合は52本。これを1本あたり91%の高い効率で連結した結果,市販のベンゼン誘導体から,わずか9段階の反応工程を経て巨大な筒状分子が合成できた。用いた芳香族カップリング反応は,すべて「日本発」。有機化学分野における日本の先駆性を示す事実であろう。



  図:筒状分子の設計・合成。いまだ合成されていない筒状小分子と,今回合成したpNT分子。分子模型は,実験により決定された結晶構造。


さて,結晶構造解析が実験的に解き明かした pNT分子の構造を見て欲しい。直径おおよそ2nm,長さおおよそ3nmの美しい筒状分子である。 CNTとの最大の違いは筒状側面に空いた「孔」であり,これが周期的に筒上に配置されている。 通常,多くのπ電子を連ねると色が着くのが有機化学の常識だが,pNT分子は,240個ものπ電子が連なっているにもかかわらず,無色透明であった。これは周期的に空いた孔の効果であるが,さらに密度汎関数法という理論計算から,pNTを無限に長くしてもほとんど色が着かないだろうという予測が立っている。無限長pNTは,透明な 半導体性ナノチューブとなるとも予測されている。われわれは1,3,5-三置換ベンゼンに「フェナイン」という名称を提案し,この新しいナノチューブを「フェナインナノチューブ」と名付けた。

研究において単純な発想の転換が大きな展開をもたらすことは少なくない。私たちの新しい合成戦略からはジオデシックフェナインフレームワーク (geodesic phenine frameworks)と名付けた一連の孔あきナノカーボン分子が設計・合成され初めている。これから,さまざまな分子設計により,たわんだ独特な分子構造はもちろんのこと,孔のもたらす特異性を追求していきたいと考えている。発想豊かな若い学生・ 研究者の参画を心待ちにしている。

本研究成果は,Z. Sun et al ., Science ,363, 151(2019) に掲載された。

(2018年1月11日プレスリリース)

理学部ニュース2019年5月号掲載

 

 

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