数学科

 ―科学の言葉と本質の追求―

寺杣 友秀(数学科長/数理科学研究科 教授/数学科兼担)

東大の中では数学科は理学部の中にあってもすこし特殊な位置にある。数学科は理学部のなかの一組織であるにもかかわらず,大学院の組織として理学部数学科とシームレスにつながって いるのだ。数理科学研究科は数学および数理科学を研究する独立した研究科だからである。数学という学問は,古来そもそも物理をはじめとする自然科学の発展とは切っても切れない関係であるが, 現代数学は多くの分野に分化されている。純粋数学の世界で考えると,アンドリュー・ワイルスに より300年以来の難問である「フェルマーの大定理」 が証明されたり,ペレルマンによりポアンカレ予想が証明されたりと,自分が学生の頃にはおそらく自分が生きている間には証明されないだろうと思っていなかった定理や予想がいくつも証明され, 著しい発展があった。また,純粋数学以外にも多くの数学が存在していて,現代において数学で扱 うトピックスはひじょうに幅広いものになっている。他の自然科学,あるいは社会科学との境界領域を扱うものから,数学の中でも問題を数学の中で取り扱うものまでそのスペクトルは広大なものである。数学のなかで共通点があるとすると,それは物事の本質や共通に存在する原理に向かおうとする研究姿勢,主張される定理を論理的に確かなものと推論する研究方法である。


数学科の歴史

理学系研究科数学専攻が理学系研究科から独立して当時の教養学部数学教室とともに数理科 学研究科が立ち上がったのが1992年のことであった。それまでは「数学」という色彩が濃かった理学系研究科数学専攻は幅広い「数理科学」というあらたな活力を得て現在に至っている。数理科学研究科においては「純粋数学」の研究者にとっても,周りの研究者の刺激をうけ,いろいろな視点から物事を眺められるようになり,世界が広がることで良い意味で大きな影響を受けている。理学部数学科からは,いわゆる数学者といわれる数学の研究者を多く輩出していることはもちろんであるが,一般企業,官庁,教員として数学科,数理科学科で培った,物事を分析するスキルを社会に生かす職業に就く卒業生も多い。


カリキュラムの紹介

それでは私たちの理学部数学科ではどういった ことが学べるのか,そのカリキュラムを主体 に紹介したい。数学科では「数学」における基礎的なスキルを習得するカリキュラムが展開される。

2年生で数学の基礎を学ぶ

2年生の冬にはもっとも基礎の部分を学ぶ。柱とのなるのは「代数と幾何」,「集合と位相」,「複素関数論」の3つの科目である。「代数と幾何」は代数分野の初歩というべき科目で数式の抽象的な代数の扱いを学ぶ。これは線形代数をさらに発展させたものといってよい。抽象化により,問題が浮き彫りになり,議論が単純化される。「集合と位相」では幾何学の分野で基礎となる位相空間を扱う。位相は連続の概念を抽象化したものであるが, これらを曖昧さなく的確に表現できる「言葉」である。微積分学を複素数の世界で発展させたものが「複素関数論」で,複素関数にまで広げることにより,豊富な理論が展開される。微分方程式論はいうに及ばず,解析分野において根幹をなす部分である。このように数学では下図のように,大 雑把には代数,幾何,解析の分野がある。しかし これらは互いに密接にかかわりあいながら発展してきたものである。これらを応用できる程度にまで身に着けるのはひじょうに時間がかかるもので, 言語を習得するのにある意味似ている。大雑把に理解することと,十分な理解のもとに,人に分かるように論理的に議論を展開できることには大きな隔たりがある。より確かな理解を得るために,3つの科目のそれぞれについて演習が用意されていて,人前で説明する機会が設けられている。自分一人の理解ではなかなか気づきにくい,あいまいな点があれば教員の指摘をうけるであろう。初めに数学の研究方法に関して言及したが,数学の研究において,人と議論すること,あるいは人前で話すために準備をすることはとても重要なことで, 多くのひとにとっては演習の時間がそういう経験を初めてする場となるだろう。問題の設定を必要十分なだけ端的に的確に言い表すことはなかなか難しいことなのだ。どう説明するのが適切かを自分のなかでまとめる経験は数学以外のことにあたるときにも役にたつに違いない。

4年生の「テキスト・セミナー」

数学科学部生のカリキュラムにおいてもっとも重要な部分はやはりなんといっても4年生のテキスト・セミナー(講義名は数学講究XA,数学特別講究)であろう。数学の分野は大きく分 けて代数,幾何,解析の各分野とそれらと境界分野との融合を視野にいれた応用数理の分野にわけられるが,4年生のテキストセミナーではそういったより専門性の高いテキストが提示され,学生がそのうちの一つを選択することになっている。基本的に一週間に1コマの講義であるが,テキストにそって,受講生が担当教員に向かって講義をするというスタイルで行われる。担当教員は講義において,すこしでもあいまいな点があったり,無駄なこと長々と話していると指摘されることがある。また先生よってはセミナーの最中にテキストと関連して,次回までの課題が出されることがある。セミナーには準備のため,一週間のうちの多くの時間が費やされる。

  数理科学研究科棟大会議室より。

数   学   科
数理科学研究科

さきほども触れたように, 数学の研究においては論文を読んで,自分の問題意識を育てていくことも大事であるが,お互いに自分の理論や方法を発表し,それらを自分の研究に取り入れて いくことも重要な要素となる。理学部数学科は数理科学研究科と同じ建物のなかにあり,建物にはいれば,そういった議論の場である研究集会の案内を目にするだろう。内容はよくわからなくても講演題目だけでも眺めていると楽しくなるものだ。

数学が単純に好きなかたはもちろん,さまざまな現象の背後にはどういった原因があるのかを,数学という手段を用いて解明をしてみたいという方も数学科進学をひとつの選択肢に考えてみるのもおもしろいのではないだろうか?


理学部ニュース2019年3月号掲載

 

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