小惑星にも水があったとさ

尾中 敬(東京大学名誉教授/天文学専攻)

 


小惑星にある水は地表を川のように流れているわけではない。氷となっている水もありえるが,今回観測したのは,小惑星を作っている岩石の中に水質変成作用により取り込まれた水である。このような水を含む鉱物を「含水鉱物」と呼ぶ。固体の氷は波長3µm(マイクロメートル)のところに特徴的な格子振動をみせるが,含水鉱物の場合はその特徴的な振動がちょっと短い波長の2.7µmに出てくる。氷は昇華温度まで温まると水蒸気になってしまう。一方含水鉱物の中の水は簡単に外に出てくることがないので,「水」を確認するにはより有効である。この特徴を小惑星の反射光に検出できれば,「水」(正確には含水鉱物に含まれる水)の存在が確認できる。ところが,氷の3µmの特徴は地面からの観測ができるが,ちょっとだけ波長がずれた2.7µmは,すでに地球大気の水蒸気や二酸化炭素の吸収で,地面からの観測が困難になっている。このため,小惑星にどのくらい水があるかどうかは長い間謎のままであった。

2006年2月に宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所が欧州宇宙機構との協力で打ち上げた日本初の赤外線天文衛星「あかり」は,ちょうどこの波長の特徴を調べられる観測装置「近・中間赤外線カメラ」を持ち合わせていた。神戸大学大学院理学研究科の特命助教・臼井文彦氏を中心とした我々のグループは,この「あかり」衛星の装置を使い,66個の小惑星について含水鉱物の特徴の有無を調べた。するとC型小惑星に分類される22個の小惑星のうち,17個から自信をもって含水鉱物があると言える2.7µmの吸収を世界で初めてみつけた(図)。小惑星にはいくつかの分類があり,このうちC型は有機物や水を持っていることが予想されていた。今回の観測はこの予想を初めて観測で証明した。一方S型と呼ばれる小惑星には水はほとんど存在してないと考えられていて、今回の観測でも17個中2個に弱々しくみつかっただけである。小惑星探査機「はやぶさ」が探査した小惑星「イトカワ」はS型で,今「はやぶさ2」が探査している「リュウグウ」や,NASAの「オサイリス・レックス」が頑張っている「ベヌー」はC型である。それぞれ「あかり」と同じ2.7µmの特徴を調べられる装置を持っており,小惑星表面の地形による含水鉱物の分布の様子がわかることが期待される。

 
図:「あかり」赤外線天文衛星で得られた C型小惑星の反射スペクトルの例。波長2.7µmに含水鉱物に起因する特徴がみられる(緑矢印)。波長3.1µmに氷などに起因する特徴を示すものもある(青矢印)。

探査機による観測は衛星望遠鏡からのリモート観測ではできない詳細な研究ができる一方,衛星望遠鏡からの観測は,今回のようにさまざまな小惑星を幅広く観測できるという特徴がある。お互いの特徴を生かした研究から,太陽系の中での全体的な進化の物語を語る材料が得られることが期待される。今回の研究は,「リュウグウ」や「ベヌー」の成果と合わせて,地球の水が本当に小惑星からきたのかを確かめる糸口になるであろう。

本研究は F. Usui et al ., Publications of the Astronomical Society of Japan, 71, 1 (2019)に掲載された。

(2018年12月17日プレスリリース)

理学部ニュース2019年3月号掲載

 

 

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