「ゆらぎと相転移」

桂 法称(物理学専攻 准教授)


宮下精二(著)
「ゆらぎと相転移」
丸善出版(2018年出版)
ISBN 978-4-621-30296-5

相転移とは、多数の構成要素からなる系の巨視的な状態が特異性をもって変化する現象を指す。このように書くと、特殊で抽象的な現象のように聞こえるかもしれないが、実は身の回りにあふれている。典型例は、水が100°で沸騰、0°で氷結する現象である。また、加熱によって磁石が磁力を失う現象も、その一例である。これらは、マクロな数の構成要素が集まってはじめて起こる協力現象であり、個々の構成要素(たとえば水分子)の性質だけからは、決して説明できないものである。

本書は、理学部物理学科で統計力学の第一線の研究を続けてきた著者が、「ゆらぎ」をキーワードに、このような相転移現象について解説した教科書である。2016年度のパリティ誌に、「相転移ことはじめ」として連載された記事を単行本化したものである。おもに磁性体の模型を例にとり、平均場近似やくりこみ群などの手法が紹介されている。また、2016年のノーベル物理学賞の受賞対象となったコスタリッツ-サウレス転移や、量子相転移などの進んだ内容もカバーされている。後半で、著者自身が多くの業績を挙げているフラストレーション系やスピンクロスオーバー系における相転移について、詳しく扱われているのも特徴である。

章末のコラムでは、初学者が躓きやすい点への配慮や、歴史的な背景についての興味深い記述があり参考になる。統計力学の講義の一歩先を学びたい読者におすすめの一冊である。

理学部ニュース2019年3月号掲載



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