「放射化学概論第4版」
鳥居 寛之(化学専攻 准教授)

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放射化学とは,放射性核種を対象とした,或いはそれを用いて分析などに利用する,化学の研究分野である。
理学部化学科名誉教授の富永先生が執筆された本書は,1983年の初版以来,放射化学の標準的な教科書として利用され続けてきた。応用分野や分析手段の発展,また原発事故を踏まえて改訂を重ね,最新の第4版では超重元素ニホニウムの解説も加わった。原子核や放射線の物理学とも関連する,化学としては特異な境界分野であるため,本書で扱われている内容は,原子核の安定性や壊変,核反応,メスバウアー分光学,中間子化学,ホットアトム化学,放射線が物質に及ぼす相互作用や化学反応,放射線測定,放射化分析など同位体の化学,放射性同位体や放射線の理学・工学・医学における応用,原子炉,と極めて幅が広い。
理学系研究科では500名を超える教員・研究員・大学院生らが放射線取扱者として登録されていて,物理系では加速器や放射光施設の利用者が多いが,化学や生物系では非密封RI(放射性同位体)を使った研究も行われ,放射化学の学問が役立っているのである。
私が担当する関連授業として,理学部化学科では3年生の放射化学の講義と,アイソトープ総合センター(浅野キャンパス)での実験実習がある。また,駒場の教養課程では,主題科目学術フロンティア講義「放射線を科学的に理解する」を原発事故以来毎年開講していて,放射線に関わる物理・化学・生物・医学・農学・環境学の専門家による多角的な講義を展開している。こうした講義や本書を通して,皆さんに放射化学の幅広い世界を知ってもらえたら幸いである。
理学部ニュース2019年1月号掲載