星の終活:大質量星からのガス放出現象の詳細

水本 岬希(ダラム大学 博士研究員/日本学術振興会 海外特別研究員)

 


読者の多くは,超新星爆発,あるいはブラックホールという言葉をどこかで聞いたことがあるだろう。簡単に言えば,太陽の数十倍の質量をもつような大質量星は,最終的に自らの重力を支えきれなくなって重力崩壊と超新星爆発を起こし,ブラックホールに姿を変え,その生涯を終える。だが,大質量星が安定した状態から超新星爆発を起こすようになる前までの経路,言うなれば星の「終活」,はこれほど単純ではなく,実にさまざまな段階を経る。そのうちのひとつ, 大質量星が死ぬ準備を始めた時の姿が「高光度青色変光星」であり,本記事のメイントピックである。

星の成長が進み星内部の核融合反応が強くなりはじめると,まず星表面のガスがその圧力に押されて宇宙空間に放出されるようになり,星は痩せ細り始める。この段階の星を「高光度青色変光星」と呼び,星の表面からガスが大量に吹き飛んでいる様子が観測される。そのガス放出の程度は凄まじく,たった1万年で太陽の質量と同じだけの質量を失うほどである。なお,大質量星の典型的な寿命はおよそ1000万年であり,これと比較すると1万年というのはまさにあっという間である。

今回われわれのグループは,地球からもっとも近くにある高光度青色変光星である「はくちょう座P星」の観測を行った。この天体は1600年に急激に明るくなったことで発見され,その後の詳細観測によってその時に大規模な爆発現象を起こしたこと,また現在に至るまでガス放出を続けていることが知られている。

 
図 : 鉄イオンの速度プロファイル。横軸はガスの運動速度で,観測者から遠ざかる方向を正の値としている。既知の爆発現象がつくる成分は緑色で示したごく一部分に過ぎず,青色で示した大部分の放射は,今回新たに見つかった星のごく近くの衝撃波によって作られている。

この天体の0.91-1.36μm(マイクロメートル)の近赤外線波長域の観測データを解析する中で,われわれは1.26μmで観測される一回電離した鉄イオンの輝線に着目した。この輝線は,放出されるガスがつくる衝撃波によって生み出されていることが知られている。当初,この輝線は上述した1600年の爆発現象によって作られているのだろうと考えられていた。しかし,よく調べてみるとこの爆発現象だけでは観測されている鉄輝線の様子が全く説明つかないことが分かった。図は,鉄イオン輝線の速度プロファイルと言われるものである。横軸に輝線のドップラー速度,縦軸に輝線の強度を示している。光のドップラー効果によって,ガスが観測者から遠ざかるように動いていると発せられる光は赤くなり,反対に近づくように動いていると青くなる。よって,波長のずれを調べることでガスがどのような速度で動いているかが分かる。この速度プロファイルに,衝撃波から予想されるモデル線を重ねてみると,既知の爆発現象から放射される輝線は図中緑色で示したほんのわずかの要素しかなく,残りの大部分は別の場所から発せられていることがわかった。さらなる研究の結果,この残りの成分は星のごく近くから放射されていることが明らかになった。このような星のごく近くの衝撃波の存在は,これまで理論的には予測されていたが,今回の結果によって観測的に初めて存在が確認された。この結果によって,星の「終活」の様子がさらに詳しく調べられるようになった。

最後に,この研究にまつわる裏話をひとつ紹介したい。実はこの研究結果を記した論文は,学術誌に掲載を一度却下されている。この天体は天文学者で知らない人はいないほどの「超」有名天体であり,この星がどのようにガスを放出してどのような衝撃波をつくっているかなど,すでに知られ尽くしている,そんな天体で新たな衝撃波が見つかるはずなどないのだから解析が間違っているのだろう,という訳である。このような思い込みは往々にして人の目を曇らせる。掲載却下にめげずにさらなる証拠固めをした結果,無事に学術誌に掲載が認められたのであった。信念の勝利である。

本研究は,M.Mizumoto et al.,Monthly Notices of the Royal Astronomical Society , 431, 793(2018) に掲載された。

(2018年9月12日プレスリリース)

理学部ニュース2019年1月号掲載



学部生に伝える研究最前線>

 

 

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