生物による発光は,動物と菌類(キノコ)ではさまざまな分類群で知られているが,植物では見つかっていない。もし,植物が光る能力を備えていたら,夜の森にはきっと光る花が咲いたと私は思う。花は光ることで蜜の存在を知らせ,そのような花を訪れるスズメガに花粉が運ばれたかもしれない。なぜ,植物には光るものが存在しないのだろうか。私が考えるほど,植物には光るメリットがないのだろうか。あるいは植物には,光る仕組みをもつことができない特別な理由があるのだろうか。

クチナシやテッポウユリ,あるいはジャスミンのように,夜に咲き,ガに花粉が運ばれる花は,ほとんどが白い花をつける。これは月明かりのもとで白い花がよく目立つためだ。花に芳香があるのも,夜の森でガに花の位置を知らせる重要な役割がある。もしこれらの花が発光していれば,そのような花はより目立ち,より昆虫に見つけられやすくなる,と考えるのは不自然ではないだろう。また,オシロイバナなどいくつかの植物では,花弁が蛍光を発することが知られている。蛍光は,短波長の光(紫外光など)で励起された物質がもとの状態に戻る際に光を発するもので,暗闇でも生物自らが光る発光とは異なる。しかし,夕方や曇りの日に蛍光色の服が目立つように,夕闇に咲くオシロイバナの花は遠目からでも浮き上がるように際立って見える。蛍光と違い,発光にはエネルギーが必要なので,それに見合うだけのメリットがあるかを検証しなければならないが,目立つことを競うように咲く自然界の花を見ていると,「光れるものなら光りたい」という植物の声が聞こえそうな気がしてくる。

   
林床に落ちた枯れ枝が,発光する腐朽菌に分解されると,図のように光る。子実体(キノコ)以外の菌糸が発光する菌類としてはナラタケ属が代表的(本図の菌は未同定)。本州から沖縄にかけての暖温帯の森で,雨上がりなどに普通に見られるので,機会があればぜひ見て欲しい。微弱な光だが,目が慣れてくると林床が星空のように見えてくる。与那国島にて。高感度で30秒間露光。 

いっぽうで,植物には光る仕組みを発達させられない理由があるのだろうか。これには発光に関わる物質やタンパク質についての分子レベル,遺伝子レベルの研究が必要だろう。しかし,一部の魚やイカのように,自ら光る仕組みをもたなくても,発光バクテリアを共生させて光る動物は多い。植物が,窒素固定細菌や養分の吸収を担う菌類を根や葉に共生させているのは普通だから,発光する細菌や菌類を共生させることも不可能ではなかっただろう。シイ林が発達する暖温帯の森で,夜に明かりを消して真っ暗闇に目を慣らすと,ところどころで落ち葉や枯れ枝が光っているのを見ることがある(図)。これは,植物を分解する腐朽菌の菌糸の発光によるものだが,これが生きた植物の中で起これば植物も光るのに,といつも考えてしまう。

私たちの研究室では,花の色や形や匂い,葉の形などの多様性に着目した研究を進めており,植物と昆虫の新しい共生や,葉の新しい防御機構などをこれまで見つけてきた。ありふれた植物の,目で見て分かるレベルの現象にも,見過ごされているものがまだたくさんあり,こうした未知の生態を解明していくことで,私たちが見ている植物の世界を広げていくことを目指している。光る植物を見つけるのは夢物語かもしれないが,植物が光っていてもおかしくないと信じなければ見つからない。まずは夜の森を,明かりを消して歩くことから始めたいと思う。

理学部ニュース2019年1月号掲載



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