ビムラとの共同研究を通して

徳宿 邦夫(物理学専攻 博士課程2年生)

所属するリーディング大学院(MERIT)のプログラムで, 2018年1月から4月の3か月間,スイス連邦工科大学ローザンヌ校(Swiss Federal Institute of Technology in Lausanne(EPFL))に滞在し共同研究を行った。

せっかくなので普段の研究テーマと違う事をやろうと思い,フレデリック・ミラ(Frédéric Mila)教授のもと,量子スピン系という分野の研究を行う事にした。ミラ教授は多忙なため,実際の研究遂行はインド人ポスドクのビムラ(Bimla Danu)という女性と行うことになった。海外の研究者との共同研究はこれが初めてである。本コラムでは,この共同研究を通して感じたことを書こうと思う。

研究室メンバーで雪山ハイキングに。右から二番目がビムラ,一番左が筆者

ビムラは若いポスドクで,机の上はいつもぐちゃぐちゃの計算用紙でいっぱいだった。おしゃべり好きで,仲良くなると,一緒に行くコンサートのチケットを私の分も一緒になくしてしまうなどのうっかりした一面も見られた。

彼女は私にとって付き合いやすいタイプの人であったが,共同研究の滑り出しはあまり良くなかった。なじみのない分野であったことに加え,私の英語の未熟さもあり,議論がうまく噛み合わない事が多かった。また,自分の方が正しいと思ったときも,自信のなさから強くは言えず,ひとまず彼女の指示に従い,時間をかけてそれが誤っていると示す事もあった。基礎的な事に時間がかかってしまい,自分は研究に貢献できないまま帰国してしまうのではないかという不安を感じていた。

このような状況であったが,焦っても仕方がないと割り切り,まずは信頼関係を築く事にした。任せてもらった計算はできるだけすばやく終わらせて,毎日,彼女のデスクに通い,些細な事でも報告するようにした。常に笑顔を忘れずに,小さな事でもきちんとお礼を言うように心がけた。彼女のデスクに行くときは,近所で買ったスイスチョコレートをもっていき,ひと段落した時に一緒に食べて雑談をするようにした。お互いの国の話や家族の話,ヒンドゥー教の神々の話などをよく話した(ここで,学部時代に二回,インド旅行に行った経験が思いがけず役に立った)。研究室のイベントにも積極的に参加し,雪山ハイキングやスキーなどに,時には泊りがけで遊びに行った。そんな中でビムラとの距離は縮まり,いつしかお互いに気兼ねせずに話せるようになっていた。

このようにして信頼関係ができた事で, 踏み込んだ議論ができるようになっていっ た。それに伴い,自分の考えをきちんと伝えることができるようになり,研究に貢献できていると感じる瞬間も増えた。

最終日,ミラ教授(右)とビムラ(左)と。(中央: 筆者)

あっという間の3か月が過ぎ,運にも恵まれて,まとまった結果を出す事ができた。成果にはミラ教授も満足してくれた様子であった。最終日にビムラは,「すごく良くやってくれた」と言って,沢山のチョコレートとインドの食器をお土産に持たせてくれた。

振り返って見ると海外においても,きちんと信頼関係を築き,知識の差に関係なく対等に議論し,一緒に仕事を進めていくという共同研究の本質は同じだったように思える。当たり前のようにも思えるが,実感をもって体験できた事は貴重だったと思う。

 
2015年3月 京都大学理学部理学科 卒業
2015年4月 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 修士課程 入学
2017年3月 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 修士課程 卒業
2017年4月 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 博士課程 入学 現在に至る


理学部ニュース2018年11月号掲載

 


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