彗星にはなぜ重い窒素が多いのか?
〜なぞを解く鍵は太陽が生まれる前にあった〜

相川 祐理(天文学専攻 教授)

 


窒素のほとんどは質量数(陽子数と中性子数の和)が14であるが,中性子を1つ多く含む質量数15の安定同位体も太陽系には約450分の1の割合で存在する注1)。同位体が同じ確率で分子に取り込まれるならば,分子の同位体比(たとえば15NH3/14N3比)は元素同位体比と等しくなるはずである。しかし太陽系始原物質である彗星では15N/14N比は150分の1であり15Nに富んでいる。いっぽう,星間分子雲において,窒素を含む主要分子の1つである窒素分子では, 15Nが少ない注2)

一般に,分子の同位体比が元素の同位体比と異なる同位体分別には2つの原因が考えられている。 1つ目は分子のゼロ点振動エネルギーの差と環境の温度に起因するものである。重い同位体を含む 分子は振動エネルギーが低いため,低温で同位体交換反応が起きると,分子は重い同位体に富むようになる。2つ目の原因は,星からの紫外線による解離反応である。分子雲表面に星からの紫外線が照射すると,存在比の高い分子は自己遮蔽効果によりごく表面に存在する分子だけが壊される。 いっぽう,存在比の少ない同位体分子は自己遮蔽が効きにくく,より深い領域まで解離が進む(図)。これを選択的光解離という。


図:分子雲形成過程での選択的解離と同位体分別

彗星が15Nに富むことは定性的には低温での交換反応を示唆し,分子雲の窒素分子が15Nに乏しいことは選択的光解離を示唆する。しかし,実際に交換反応の効果を取り入れた数値計算を行うと,観測されているほど15Nに富む氷をつくることは難しい。また,窒素分子には選択的光解離が確かに効くが,分子雲表面の薄い領域でしか起こらず,なぜ観測されている分子雲領域の全体で15Nに乏しいのかは謎であった。 

そこで筑波大学計算科学センタの古家健次助教とわれわれは,分子雲の形成段階を考えた。分子雲は,銀河内の星間ガスが超新星爆発などで掃き寄せられて形成する。このガス内での分子生成を選択的光解離を考慮して数値計算で調べると,すべてのガスは必ず選択的光解離領域を通るため,分子雲全体で窒素分子は15Nに乏しくなることが示された。さらに,光解離で生じた15N原子は星間塵表面でアンモニアなどに変化し,15Nに富む氷を生成することも分かった。

アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(通称ALMA望遠鏡)の完成により現在,惑星系形成の現場である原始惑星系円盤においても,ガス分子の窒素,水素などの同位体比観測が進んでいる。今後,太陽系始原物質で測られている固体の同位体比とガス分子観測から分かる気相の同位体比を組み合わせて,惑星系形成過程に迫るさらなる研究の進展が期待できる。分子雲での同位体分別過程の理解はその土台となる。

本研究成果は,K. Furuya & Y. Aikawa. ,The Astrophysical Journal 857,105(2018)に掲載された。

注1) 現在の星間空間では15N/14N比は200~300分の1と推定されている。太陽系の元素同位体比との違いは,太陽系誕生後46億年の間に起こった銀河系内の星々の元素合成の影響であると考えられている。
注2) 窒素分子N2にプロトンが1つ付いたN2H+を観測する。

(2018年4月27日プレスリリース)

理学部ニュース2018年9月号掲載



学部生に伝える研究最前線>

 

 

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