葉の初期発生を制御するWOX4遺伝子

平野 博之(生物科学専攻 教授)

 


植物と動物の発生や形態形成の機構は大きく異なっている。動物では,多くの場合,胚発生時に分化した組織や器官がそのまま成体の一部となる。これに対し,植物では,胚発生時に作られた幼植物(芽生え)は成体とは大きく異なっており,成長した植物の葉や茎などの器官は,胚発生後に,頂端メリステム注1)(分裂組織)から分化する。メリステムから葉の原基が形成されると,細胞の分化が起こり,葉肉や維管束などの組織が形成される。

私たちは,イネ(Oryza sativa)を単子葉類のモデル生物として研究しており,数年前に,WOX4という遺伝子が頂端メリステムの幹細胞を維持するために必須であることを解明した。今回の研究では,WOX4が葉の初期発生においても,重要な鍵因子としてはたらいていることを明らかにした。

幹細胞が維持されないと植物は,成長できず枯死してしまう。したがって,幹細胞維持に必須なWOX4遺伝子が,葉の発生にどのようにはたらいているのかを調べるには工夫が必要である。そのため,私たちはWOX4mRNAを選択的に分解することを目的として,薬剤処理によってRNAサイレンシング注2)を誘導する実験系を確立した。この実験方法では,処理時にすでに葉原基として分化している葉を解析対象とすることができるので,WOX4のメリステムにおける機能と葉における機能を切り分けて調べることができる。 

発芽5日後の植物に対してWOX4のmRNAの選択的分解を3時間誘導し,さらに通常条件下で5日間育てると,維管束や中肋注3)の組織分化が阻害され,葉全体の成長も低下することが判明した。また,WOX4のmRNAの選択的分解は,維管束分化や中肋形成を制御する主要遺伝子の発現低下を引き起こした。さらに,WOX4は,細胞増殖に関わるサイトカイニンというホルモンの合成系遺伝子の発現制御を通して,細胞活性にも影響を与えていることが判明した。これらの結果は, WOX4遺伝子が葉の組織分化や細胞増殖を制御する主要遺伝子のさらに上位に位置し,葉の初期発生の中枢的遺伝子としてはたらいていることを示している(図)。

   
図:頂端メリステム(左下)と葉の初期発生における(右)WOX4のはたらき。WOX4 は,DLLOGなどのいろいろな遺伝子を制御することにより,葉の初期発生の鍵遺伝子としてはたらいている(ブルーの矢印は,正の作用を示す)。右下の写真は,WOX4の発現を3時間阻害するだけで,維管束を構成する木部や師部の発達が大きく妨げられていることを示している。

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一方,シロイヌナズナでは,WOX4遺伝子は維管束幹細胞を制御していることが判明しているものの,イネのようなマルチな機能は報告されていない。イネにおいてWOX4が幹細胞の維持と葉の初期発生をそれぞれどのように制御しているのか,その分子機構を解明し,被子植物の進化の過程で WOX4遺伝子がどのように機能分化してきたのかを 明らかにすることが,今後の課題である。

本研究は,Yasui et al ., PLOS Genet . 14: e1007365(2018)に掲載された。

注1) 茎などの先端にある植物の発生に重要な組織で,ドーム上の構造をしている。ドームの頂端部には幹細胞が常に維持されており,幹細胞の分裂によって増えた細胞は側生領域へと押し出され,葉や花器官などを構成する細胞へと分化する。
注2) ターゲットとする遺伝子の一部を含む特殊なRNA を発現させ,人為的にその遺伝子の発現量を低下させる方法。
注3)

イネなどの薄く細長い葉が直立するために必要な,葉の中央部にあるやや太く堅固な組織。

(2018年4月26日プレスリリース)

理学部ニュース2018年9月号掲載



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